スタヴィエの子供たち

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 雪山の寒さは、上質な外套すら易々(やすやす)と突き抜ける。わずかに窪んだ岩の隙間で、メラニーとレオは体を寄せ合っていた。 「大丈夫。朝になれば助けが来るわ」  レオを抱きかかえたまま、メラニーは夜を睨み付ける。朝になれば助かる。朝を迎えることさえ出来れば……。  その時、はたと雪がやんだ。大きく風が吹き、黒雲が散らされる。月の光に照らされ、森は昼間のように明るくなる。  そこに、メラニーは奇妙なものを見た。足跡だ。銀色に光る雪の上に、足跡だけがぽつねんとある。メラニーの視線に気が付くと、足跡は(きびす)を返し、雪の上を進み始めた。一歩、また一歩と……。 「ハンスだ。あれはきっと、ハンスだよ」  寒さで朦朧(もうろう)としながら、レオが言った。 「ハンスが迎えに来てくれたんだ。メラニー様、行こう……」  足跡の後を追い、白銀の森の中を歩く。足跡は二人がはぐれないように時おり立ち止まりながら、ゆっくりと街へ向かっていく。夜通し歩き続け、やがて黒い木々の向こうに街の明かりが見えた時には、東の空はうっすらと白み始めていた。 「助かった……私たち、助かったのよ、レオ!」  喜ぶメラニーに抱きしめられたまま、レオは背後を振り返った。雪の上の足跡は、しばらくそこに立ち尽くしていたが、やがて森の奥へ歩き去っていった。
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