すてきな新生活

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「いや、少し古いんですけどね。この辺りでこのお家賃は破格ですし、時期も時期ですから…他の方に決まっちゃうかもしれませんよ」 早口で一気に言い終えた不動産会社の男は、私の反応を窺う。そう言われても、私は自分の持ち得る選択肢を頭の中で整理した。 まず、時間がない。はるばる上京する身としては、今日中に部屋を見付けてしまいたい。 そして、お金もない。アルバイトをしてきたけれど、田舎の時給の安さが私のマイルームの夢を狭めていた。 駅から徒歩十五分。商店街を抜けていくから、体感的にはもう少し短く感じられるか。 築五十年の二階建てアパートは、階段を上る時点でその傷みを訴えるようにキシキシ音を立てていた。 古い、汚い、狭い。 でも、ここに来るまで見てきた物件だって似たり寄ったりだった。 その中でこのアパートが勝る点は、南向きのベランダ。向かいが駐車場で開けているから日光は妨げられる事なく部屋に注いでいる。お陰で畳は焼けて毛羽立っていたが、入居前に新しいものに替えますよとキツネ顔の男は胸を張った。 そして何より安さ。管理費込みの4万円ぴったり。何を管理するのだろうと疑問にも思ったが、毎月の出費を抑えられるに越した事はない。 「どうします?先程確認したところ保留にはちょっと出来ないようので、イエスかノーかでお願い致します」 電話をしている素振りはなかったが本当だろうか。田舎娘と舐められているのではと不安が過りつつも、頭の中での答えは出ていた。
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