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「おじゃましまーす!」
「どうぞ、本当狭いから自分で場所確保してね。あとあんまりじろじろ見ないでね」
分かってるってと明るい声を上げながら恭子は靴を脱いでキッチンの脇を歩いていく。
「志貴君、どうしたの?」
志貴君は何回か瞬きをして、私の顔を見詰めた。少し長めの前髪から覗く切れ長の瞳は改めて視線を合わせるとドキッとさせられる。
「え、何、何かついてる?」
私は無意味に頬に手を当て腰を回す。けれど志貴君は私を無視して恭子の後を追うように台所の脇を歩いて六畳の和室に足を踏み入れた。
「…本当に、どうしたの?」
「久瀬、ここって一人暮らしだよな」
当たり前の事を問われ、私はこくりと頷く。頬に溜まったはずの熱は、何かを察したようにいつの間にか引いていた。
「え、何なに?何かいるの?」
「ちょっと待って、何かいるって…志貴君って、そういうの分かるの?」
そういうの、言葉を濁してもこの不穏な空気に当てはまるのはあれしかない。
「あれ、話してなかったっけ?志貴君ユーレイ見えるんだよ!おじいちゃんが神主さんなんだよね?それは関係あるのか知らないけど」
志貴君の代わりに恭子が説明したけれど、いつもと変わらないやけに明るいトーンなのでなんだか緊張感に欠ける。でも確実にユーレイ、幽霊って言った。
「あんまり積極的に言う事でもないしね。…でも、嫌な感じじゃないから大丈夫だよ」
「え、なに、何がいるの?それは教えてもらわないと逆に怖いよ!」
私はみるみる顔を青くしながら志貴君の肩を掴む。志貴君はゆっくりと視線を落として、縫い目が綺麗な畳を見詰めた。
「足跡」
「…え?」
「子供の足跡が沢山ある。今はいないみたいだけど…」
私は沈黙する。子供の足跡。あしあと。たくさん…。
「めっちゃ怖いじゃん‼︎ やだぁ、志貴君お祓いとか出来ないの?」
「いや、俺はただ見えるってだけだから、あといてくれたら話は出来ると思うけど」
さらりとすごい事を言う志貴君だけれど、私はほとんど涙目になりながら志貴君を掴んだ手の力を抜けないでいる。
「…あ」
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