彼女は

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 写真については何も触れずに彼女は向かいの椅子へ戻る。老眼鏡をかけると、取り出したメモ用紙に書かれた小さな文字に丁寧に視線を這わせる。買い物リストのようだ。そうして膝にちょこんと両手を載せて、通りの向こうに視線を移すので、その先を追うとよく彼と行ったベーカリーの表に若いカップルが自転車を止めるのが見える。受け取った写真をピラピラ指で弾きながら 「別れたんです、一緒に住んでいた人と」  なぜだか、ぽつんと言葉が溢れた。白い花々を想起させるような、爽やかで柔らかい洗剤の香りがゴトゴトと鳴る洗濯機の振動で弾けて鼻の先まで運ばれてくるよう。 「一人は寂しい?」  彼女はこちらに向き直ることもなく、とても自然に投げかける。 「わからないんです。寂しいのか、ただ一人が怖いだけなのか」  首を傾げながら、心もとなげに答える。
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