いる。

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 俺は部屋を見渡した。人影はない。見える範囲には。  全身に寒気が走る。鳥肌が立っている。足は震え、鼓動が早まっているのが自分でも分かる。嫌な汗も出てきた。  今までずっとくつろいでいたプライベート空間が今は異質な空間に感じる。誰かがこの部屋にいる。どこかに隠れている。頭にはさっきの強盗殺人のニュースが浮かぶ。まさか、そんなわけがないと自分に言い聞かせる。  どうする。どうすればいい。思考が全くまとまらない。次の瞬間にはそこの部屋のどこからか、例えばそこのクローゼットからその誰かが出てきて俺は殺されてしまうかもしれないという恐怖がある。怖い。今すぐに逃げ出したい。  そうだ、逃げればいい。俺はなんでこんな簡単なことを考えつかなかったんだ。そう思い、玄関に行こうと玄関の方を向いた。暗い静かな廊下がそこにはあった。俺は足を止めた。  待て待て待て。もし、トイレにそいつが潜んでいたらどうすればいい。逃げようと扉を開ける瞬間、そいつに襲われたらどうすればいい。さっき手洗い・うがいをするために洗面台を使ったが、もしかしたら風呂場に潜んでいたかもしれない。そもそも廊下に向かった瞬間、そこのクローゼットから背後を襲われるかもしれない。  じゃあ、ベランダから逃げようか。俺はそうも思った。ここは2階。無傷とはいかないかもしれないが死ぬことはないだろう。けど、ベランダにそいつが潜んでいたら……。ベランダに出ようとした時にクローゼットから出てきて、背後から襲われる可能性もある。  じっとしているだけなのに息が上がる。自分の呼吸音と鼓動の音しか聞こえない。どこにいるかわからないから迂闊に動けない。  どのくらい時間が経ったのだろう。膠着状態が続いていた。 そんな時、足下に転がっているスマホが鳴った。この着信音はメッセージが届いた音!  そうだ友達に助けを求めるとか、警察に来てもらうとか方法は他にもいくらでもあるじゃないか! そう気づいた俺はすぐに足元のスマホを拾った。  クローゼットが開く音を聞きながら。  気づいた時には遅かった。クローゼットから刃物を持った誰かが低い姿勢のまま俺に突進してきた。腹部に鋭い痛みが走る。じわじわとそこが熱くなり、どんどん広がっていった。血が滴る音を聞きながら俺の視界はぼやけ、歪み、暗くなっていった。俺はどんな奴に刺されたのかも分からないまま意識を失った。  その後、俺が目覚めることは二度となかった。
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