いる。

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「くそ~。びしょびしょじゃねぇか」  そう言いながら俺、蒼井寛太は自分のアパートの階段を上る。小腹がすいたため、近くのコンビニに行った帰り道に運悪く雨に降られてしまったのだ。  アパートの廊下を歩いていると、濡れた足跡が自分の部屋の前まで続いていた。留守中に誰か来たのか、申しわけないなと思いつつ扉の前まで行き、左ポケットから出した鍵を鍵穴に挿し、回す。 「あれ?」  鳴るはずのガチャッという音が聞こえない。開けっ放しだったらしい。確かに、鍵を閉めたという確固たる記憶はない。もはやルーティンの一部と化しているので気にもしなかった。 「気を付けないとな……」  そんな注意喚起をしながら部屋の中に入り、鍵を閉める。  大学生の一人暮らし。ワンルームの狭い部屋だ。ワンルームに続く廊下の左側にはコンロやシンクがあり、右側にはトイレ、洗面台・風呂場がある。別々になっているところがとても良い。収納としてクローゼットがあり、ベランダもついている。  洗面所で手洗い・うがいをして、濡れた服を横にある洗濯機に放り込んだ。それから部屋の中央にある小さいテーブルにコンビニ袋を置いて、出かける前に着ていた脱ぎっぱなしの部屋着を着て、座る。右ポケットから取り出したスマホをいじりながら買ってきた菓子パンを食べる。  検索サイトのトップページの1つのニュースに目が留まる。隣町で強盗殺人が起きたらしい。しかも、犯人がまだ捕まっていないという。こういう事件を聞くと、しかも身近で起こると俺も気を付けないとなと思う。特にさっきみたいな鍵の閉め忘れなんかは……。 「!!」  俺は菓子パンを食べる手を止めた。思い出したのだ。さっき見た足跡を。廊下で見た俺の部屋の前まで続いていた足跡。あの足跡、帰りの足跡が無かった。もし俺の留守中に誰かが訪ねてきて帰ったのであれば俺の部屋に来た足跡と引き返した帰りの足跡の2つが無ければおかしい。帰りの足跡が無いということは……。  俺は勢いよく立ち上がる。スマホが床に落ちたが、そんなこと気にもならなかった。  この部屋に誰かがいる。
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