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ジーナとロートシルト
二人は、ゆっくりと歩き出した。
「僕の名はロートシルト。君の名前は」
男は、どこの国の人間なのか分からないが、外国風の名前で、ロートシルトと名乗った。
年は、20代後半ぐらいだろうか。
「私は、ジーナ」
短く答えると、男はスッと手を差し出し、握手を求めた。
「ジーナ? 日本人にしては、珍しい名だな」
「あなたもね。むしろ、私よりも詩的な響きがするわ。この名前はね、私が付けたの。名前ぐらい、自分の好きな名にしたいから」
ジーナは、自分がどこの国の人間かということには、興味がないと言った。
「そうか。だが、僕はこの名前が嫌いだ。むしろ憎んでいる。気が狂うほどに」
ロートシルトの眼が曇った。
コーヒーショップの前で、二人は話し始めた。
男は、倒れていたとは思えないほどしっかりと、両足で立っている。
(本当に、倒れて泣いていた人?)
ジーナは疑問に思ったが、あまり重要ではないと思い、忘れることにした。
人混みの中で、身長167センチほどのスカートがチェック柄で、ブレザー姿の女子高生と、身長180センチほどの白髪の男が対峙している。
「君に、お礼がしたい」
「お礼? お礼などはいりません。泣いている人がいたら、助けるのは、当たり前のことだから」
「それはそうだが」
男は困惑し、少し沈黙した。
「では、礼ではなく、受け継いでほしい。私のこの能力を、この赤い石とともに」
男は頭を下げて、ポケットから赤い宝石の埋め込まれたペンダントを取り出した。
だが、ジーナは目を伏せて、首を振った。
「急に何を言うの? お礼じゃなく、あなたの能力を受け継ぐ? 意味が分からないわ」
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