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ある兵士の遺言
ある兵士は、死と呼ぶにはなまやさしい死を前にしてなぜだか人間界にいた頃のことを思い出していた。
記憶をなぞるのは第一志望校に落ちたころからはじまり、その前に大好きだった祖母の、おばあちゃんの変わり果てた姿を、思い出していた。
いつも元気ハツラツだったアクティブなおばあちゃんが、治療とはいえ違法薬物である大麻に侵され、大きな目は焦点が合わずギョロっとし、虫なんかいないのに虫が這っていて体中かゆいといい、体中を掻き毟り、言葉すらもまともにしゃべれず面会にきたわたしでさえ分からないようだった。
母が『そういえば、この間お父さんに会ったよ』というと、『え、〇〇さんに?』と驚き、そのときだけいつものおばあちゃんに一瞬だけ戻っていた。
そのときの義祖父の苦虫を噛み潰したような顔をいまだに忘れることができずにいる。
─ああ、そうか。わたし、もうしぬんだ。
せめて、最期くらいはあまくやさしい夢をみたかったな、なんて。
どろどろに溶けていくなか、この世界にきて最初で最後考えたことが人間界にいて辛かった記憶だなんて、とんだ皮肉だよな、嗤ってしまいそうだ。
薄れゆく意識のなかで嗤いながら、あまいあまいお砂糖として人間界に再利用される。
あまいお砂糖は、合法的な薬物なのに。
しかも、たちが悪いのは一度たべたら頻繁に定期的に欲してしまうことだ。
それこそ、違法薬物と大差ない。
いや、もしかしたらドラッグよりも病みつきになってやめられないとまらないから危険かも、しれない。
ほんとうは、ドラッグよりもお砂糖を取り締まるべきなのに。
判断力さえも、奪ってしまう、それが、あまいあまいお砂糖の魔法。
てぃんくるてぃんくる。
あまくてやさしいゆめの麻薬に意識すらも溶かされていく。
まともだった頃には、もう二度と戻れなくなる。
いや、最初からまともですらなかったかもしれない、まともじゃないのに、まともなフリをしていたから麻薬に溺れてしまったのだ。
あまいあまい蜜の味は、破滅への誘いであるからたとえいまが苦しくてもあまいものに溺れないで。
じゃないと、わたしのような末路を迎えてしまうのだから。
てぃんくるてぃんくる。
みるきーぴんくのこうずいにのみこまれて、もうもどってこれなくなっちゃった。
いちごみるくのあめがえんえんと、ふりそそいでいる。
きっと、これはだれかのなみだだろう、だれかはもうわからないけれど。
てぃんくるてぃんくる。
はい、おいしくあまくやさしいゆめをたっぷりと、めしあがれ。
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