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二.
「そう言えば、天の川って肉眼でも見えるんだよな……。高校から都会に出てるし、それからカメラ越しの世界ばっかり見てたから、すっかり忘れてたよ」
小さな入り江で、砂浜へと降りる階段に腰掛け、空を見上げた。
本土から遠くは無いが、一応太平洋上の島なので打ち寄せる波は荒い。
その波音のせいか、それとも透き通った冬空を横切る淡い光の帯に見とれていたせいか、トントン、と棒で地面を探り叩くような音がすぐそばに近付くまで、僕は気が付かずにいた。
はっと振り返ると、細長い木の枝を携えた一人の少女が、押し寄せては引き返す波打ち際をじっと見詰めていた。
少女は僕に気付いているのかいないのか、そのまま微動だにせず、何度もまばたきをしたり眉間に皺を寄せたりしながら必死に目を凝らしており、その視線の先に何かあるのか尋ねようかと迷っていると、遠くからばたばたと足音が響き始め、やがて僕と同じ年頃の二人の男女が懐中電灯を揺らしながら現れ、
「亜衣加!一人で行くなっていつも言ってるだろ!?」
「ったくもう!せめて懐中電灯は持って行きなさいって!」
と少女を抱き締めた。
「大丈夫だよ。この辺りに知らない所なんて無いんだし、夜でも月明かりでまだ波が見えてるぐらいだから」
そう言って微笑む少女に、もう一言、何か口を開きかけた男だったが、その手に持つライトが照らす僕の姿に気付き、一瞬驚き警戒し、しかし眩しそうに目を細めている僕に、
「お前もしかしてイナか?」
「えぇ?稲宮君?稲宮君なの!?」
女と共に声を上げた。
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