#1 生きるための場所

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#1 生きるための場所

冷たい。 それは頬をつたう涙のような… 流れる“それ”はゆっくりと首元を撫でた。 吐く息が白くて、 地面の白くて柔らかい布団のような雪の上に、ぽたり、ぽたりと垂れていく… 「おいテメェ、なんとか言ったらどうだ?」 「コイツ、こんな殴られても何もいいませんよ?」 「サンドバッグかよ、キモ…」 「いーじゃんいーじゃん、丁度今イライラしてるし遊んでやろう…ッゼ?!」 ドッと腹に衝撃が走って胃が気持ち悪い… もう吐くものなんて無いから胃液ぐらいしか出ないよ? …俺は今、4人組の派手な男に囲まれてる… …えっと…なんだったかな… 確か間違えてコイツらが座るはずの席に俺が座っちゃったんだっけ? …そんな小さいことで怒るんだなぁ… たまたま虫の居所が悪かったのかなぁ? まぁいいや、 今日は進路先とかの話ばっかされて帰りたくなかったし… うん、丁度いいな… このままここで寝たら… “死ねるかなぁ” 雪のベッドも悪く無いか。 …… 目を瞑ると優しい母の声がしたような気がした。 会いたいな…お母さん… お母さんが作ってくれたチョコレートとか、 クッキーとか…今凄く食べたい。 胃がキュッと閉まるような感じ… お腹空いたなぁ… 死にたいなって思ってるのに、 身体は生きたいって言ってるのかな… 今まできっと、 そういう生理現象に生かされてるんだよね。 人間って生きるのが大変だ… ……? 「だーかーら!弱いもの虐めとか馬鹿らしいって言ってんでしょお!??!」 目を瞑って考え事をしていたが、 冷たい真っ暗な世界に、 雑音がした… 知らない声がする。 誰だろう。 そっと目を開けると、 さほど背が高くもない少年が4人の男の前に俺を庇うように立っていた… ほっといてくれていいのに… 「ハッ、なんだよ、きのこ頭…弱っちょろそうだなぁ」 俺を殴ったり蹴ったりしていた男の言葉を聞いてみると、確かに…髪型がきのこみたいだった。 きのこの山ってクッキーとチョコ一緒になってるし、今食べたい気分のお菓子にちょうどいいけど… あ、でも… 食べるなら…たけのこの里の方がいいかも。 そんなことを考えたら不意に笑えてくる。 「この髪型のこと馬鹿にしたやつは痛い目みるからね!!??」 「なに1人でイキがッ…!!!!」 …………え?? 俺も流石に体を半分だけ起こした。 一瞬で1番先頭にいた男が雪とお友達になったからだ…何が起きたんだろう… 「こンのっ!!!!!」 他の男達が一斉に少年に殴りかかるも、 綺麗に交わされていた… 上手い…特に打撃を受けるわけでもなく、 綺麗に間に滑り込む。 あれは…嫌だなぁ…… きのこ頭だからこそだけど、 掴みづらい滑子と戦ってる気分になる。 そんなこと考えてたら、口元が緩んだ。 「気持ち悪い…」 思わず笑いながらも出たのは、その一言だった。 だって気持ち悪いんだもん、…動きが。 死にたかった気持ちが薄れていく。 ただ、目の前のやつの面白い動きを眺めていた。 「あーーーうぜぇ!もういい!!!!いくぞ!」 急に息切れを始めた男達は、 雪の上で倒れた男を担ぎながら足早に去っていく… 「なんだよ、これからだったのに…」 少年が口を尖らせて男達に向かって親指を下に向ける。 …死ねってこと? 「あ、ごめんねぇ…反撃全然してないし…心配になって手出しちゃった…僕は土屋…土屋学(つちや まなぶ)…………君は?」 そっと手を出されたが取らずにじっと見つめた。 …子供っぽい顔に対して似合わないお洒落な服… ブランドもののバックとか時計… 矯正された歯に黒光りする靴か… 御坊ちゃま…って感じだった… なのに… さっきのは、なんだったんだろう… 「絢世……、橘絢世…」 そう言って、少年の手に触れた。 暖かい。 「絢世くんね、…さっきから血も凄いし顔真っ赤だけど大丈夫?…って言うか…」 …その声と暖かさと、… 段々と声が遠のいていく… …俺、死ぬのかな? …何か声はするけど… なんて言ってるのか聞こえないなぁ… …でもいいや、 なんか、 …もうどうにでもなればいい…… 急に目から溢れてくる暖かい水は、 やけに口の中を乾かして… 喉の奥が閉まるようで 息がしづらくて、 胸が締め付けられて、 …… なんだか、 …、生きてる事が苦しかった。 …… トントントン … 何か音がした、なんだっけな。 あ、そうそう… 食卓の匂い… 優しい匂いだ。 あったかくて、 この香ばしいの香りはカレーかな? そういえは、お腹すいたって思って… 体を少し動かしてみると ギシッと音がして、 目を覚ますとそこには闇があった。 その中に一筋の光が指している。 身体は温かな白い布団に包まれていて、 冷たいベッドの上じゃない… 雪の降る街の景色はそこには広がってなかった。 …暗いけど、薄っすら見えたのは誰かの部屋? いや、部屋にしては殺風景だ… …何かが勉強机の上にあるけど暗くてよく見えない。 不意に体を起こしてみたが、うまく起き上がれずに手が滑ってベットの横に体が転がる。 ドサッと打ち付けられると全身に痛みがじわりと広がった… あぁ、そうだ… 結構やばかったんだよな…… 死ぬほど痛いなんて言葉があるならそんな感じかな、痛かった… 急に真っ暗な世界に光が全面に差し込んで目が思わず閉じる。 「絢世…だったよな」 あれ?何か聞いたことある声。 そっと目を開けたらそこには剣ヶ崎高校の学園祭の時に出会った人物が居た。 莉桜ちゃんから急にお化けに襲われる人の役をやってほしいと話された時はどう反応しようか迷ったけど…… お化け役1号の春輝くんだ? あんまりちゃんと話してなかったけど、 不思議な感じがする人って思っていた。 「お化けを見るような顔になってるよ?」 そっと手を伸ばして俺の体を支えてくれる。 その手は、なんだかあったかい。 そうやって触れてきた春輝くんに対して、 にっこりと笑って、 「……お化けじゃなかったっけ?」 と聞くと一瞬悩むような表情の後に悪戯っぽく笑って「あぁ、そうだなぁ」と肩を貸してくれた。 ゆっくりと部屋から出ると、 そこにさっきのきのこ頭も居たが、そんな事より 「凄い!!!!」 思わず目を疑ったし声が上がる。 あまりにも広い部屋と、 大絶景だ…なにこのキラキラした世界…!! 痛みを忘れて窓の方へ駆け出して街を眺めた 全面がガラス張りで、 リビングから広く街が見渡せる。 夜景が綺麗だ。 嫌いだった町も、こんなにも華やかで綺麗なんだと高いところから見ると違って見えて不思議と気持ちがよかった。 まるで神様になったみたい。 「なんだい?絢世君はこういう景色を見た事ないの?」 きのこ頭…えーと、学って言っていたな… 学が俺の横に来て座った。 「見た事ないわけじゃないけど…こんなに広く街を見渡せるような家は初めてだったから…ちょっと感動した」 「ふーん?」 街を眺める俺を不思議そうに学が見つめてきた。 すると後ろから声がかかる。 「とりあえず飯食べねぇ?」 ハッとして振り向くと大きな8人がけのテーブルに4つのカレーが置いてある。 ふと見渡すとテーブルもあるのに、 更にゆったりとした長いソファとか… でかいテレビとか… なんかとにかくスケールが全部でかい…… …一体何人家族なんだろうか…? 「ツッチー、アイツ呼んできてよ」 「えー…苦手だからって春輝くん僕をこき使うの〜?」 「さっさと行けよ」 「はいはい、春輝君のためなら行きますよ〜」 口を尖らせながら二階に向かう階段を登って行く、 彼の姿を見ていて思うが、 まずこの家の間取りが凄い… 2階にあがれることにも驚いた… マンション……だよね? …この高さ、明らかな高級マンションだ… セレブとかじゃないと買えるような代物じゃない。 自分もそれなりにいい家だけど… 次元がそのレベルを遥かに超えていた。 「絢世、座って」 不意に促された椅子に座る、 美味しいカレーの香りがしてお腹が鳴りそうになったが、堪えてると前に春輝君が座り俺を見つめる。 「ね、…絢世……お前さ、自殺願望とかあんの?」 不意に薄目で見つめられ、何を答えたらいいのかわからなくなって動けなくなった。 …別に隠すことじゃないのに… …なんだか言いづらい… でも服がちがうということは、手首にある傷とか… 自傷したものがいくつも見られている可能性があるし変に繕えない…な… 「そうだよ?」 …笑顔で俺が言うと「そっか」とだけ言って 深い詮索はしないといったように体を椅子の背もたれにつけて目を瞑っていた。 何を考えてるんだろう…不思議な人だなぁ… そんな話をしていると学となにやら会話しながら物腰柔らかそうな……青年が………? まって、あの人ってよくテレビに出てる人じゃない?なんで有名人が? 興味がなくて名前まで出てこないけど… その人がこんな場所にいるってことは、 この家は…あの人の? 「目、そんなに見開かないでよ怖いから。」 冷たく俺に言って、春輝君の隣に座る。 テレビに出ている時はそういった印象は無いけれど…あれはテレビ用に作ったキャラみたいな感じなのかな? 「カレーかぁ、今日の気分はシチューだったのになぁ…」 「文句言わないでくださいよ!」 彼の前には学くんが座り たわいもない会話をしていた。 「じゃあ、いただきます」 「「いただきます」」 春輝くんに続いて2人がご飯を食べ始めて、 慌てて目の前のカレーを見つめた。 「絢世、カレー嫌い?食べなよ」 春輝くんに言われて更にお腹が鳴る。 「うん、いただきます!」 スプーンを手にしてカレーをひとくち口に入れると、何故かポロポロと涙が出てきたのと胸が苦しくなってきた。 不思議。 「えっ!ま、まずかった?辛い?大丈夫?」 「きのこちゃんの味付けが悪かったんじゃない?」 「ぅ…あ…絢世くんごめんよ。」 何も言えなくて泣きながらカレーを食べて「美味しい〜」と笑いながら言った。 多分このカレーが懐かしい味がしたんだ、 ちょっと甘くてお母さんがよく作ってくれた味に似ていた。 だからかな…… わからない。 でもその後は何も言わずににただ、 綺麗にカレーを食べ切った。 … 「春輝くん」 片付けを始めた学と名前が思い出せない彼が台所へ行くのを見計らって声をかけた。 「あっち座る?」 広々としたソファを指さされ、 「うん」と返事しながら一緒にリビングへ移動した…相変わらず座った位置から綺麗な夜景が一望できる。 「……ここって…」 「俺の家」 口を開くとすぐさま返答される。 それに更に疑問が浮かんだ…春輝くんの…家?? どんな家柄なのかは知らない、でも明らかにセレブが持つような家だ。 どうして… 「なぁ、絢世…死にたくなるようなことってさ、どうにもならないの?」 「……わからない…」 “わからない” 口から出たものの、 落ち着いてる時はちゃんと落ち着いてる。 …本当に…落ち着いてる… 今こうやって暖かい家でゆっくりしている時は、 そんな事はない… 不意に携帯を探した。 「あれ、俺の携帯…」 「これだよ」 春輝くんが机の上にくるまっていた布を開くとバキバキに画面が割れていた。 「あー…父さんに怒られるなぁ…」 俺がじっと携帯を見つめると、目の前に暖かいココアが差し出され横に適当な菓子の詰め合わせのバスケットが置かれた。 「橘くん家族とあんまり仲よくないの?」 持ってきたのは名前が思い出せない男だ。 …俺の名前は知ってるんだなぁ… 「迅だよ、東明グループの迅」 目があってちょっとドキッとした、 俺が名前思い出せないのをわかってたのかな…? そうだ東明グループ…大手の電気通信会社… いろんな事業をする中で、 東明社長の息子の“JIN”はメディアとかでも活躍してるとかって割とテレビでは話題だったっけ… 興味なかったけど…確かに綺麗な顔立ちだし、 人気出そうなのもわかるかな。 近くで見てもオーラがある人だ… 「治せる?」 春輝くんが携帯を迅くんへ渡している。 …俺が勝手にやったことだし、 そこまでしてもらうのは… 「3分あれば」 「3?!」 俺が驚く顔を見て迅くんが笑って「驚き過ぎ」と言ったが3分は短過ぎるよ。 「ま、ココアでも飲んでて…すぐ終わるし…代わりに春輝くん、“アレ”3分延長で宜しくね?」 「あー…わかったよ」 “アレ”って…なに…? 嬉しそうに鼻歌を歌いながら迅くんが部屋に戻っていく…何だったんだろう… 「……つかさ…やられっぱなしで何でやり返さなかったの?…」 「…それは…」 俺が口籠もりながら、目の前のココアを見つめる。 何故かいつもの調子が出ない。 笑わないと…笑ってなんともないって、 春輝くんの前で、… だってみんなに、いつもこうしてるし… 何ともないって言わないと… 「絢世」 不意に頭を撫でられた。 「無理に言わなくていいけど、頼りたくなったら話せよ、力になれることあるかもしれないから」 「…う…うん」 急なことで驚いた。 頭を撫でた後、春輝くんは立ち上がり何処かの部屋に去っていく…それと交代するかのように学が俺のところに来た。 「ね、絢世くん…お風呂今日1番でいいよ?めっちゃデカいし楽しみにしててね!!?今沸かしてるから!!!」 「え、う…うん…」 凄く嬉しそうに話すけど…ここって春輝くんの家なんだよね…? 「…学くんは、どうしてここにいるの?家政婦?」 ご飯を作ったり、風呂を沸かしたり… 「いやいやいや、違うよ!ちゃんとみんな順番でやってるからね?ボクだけじゃないよ??」 「みんな?」 「…そう、いろんなやつが住んでたり家と往復しながら自由に過ごしてるんだぁ」 …シェアハウス?という形態なんだろうか… 確かに部屋数も多いし、さっき俺のいた部屋もガラ空きだったし…それぞれの部屋があるのかな。 「まぁ、やっと最近ここに落ち着いたんだけどね〜…」 「……そうなんだぁ…学くんは、どうしてここに?」 「あ…えっと…」何かを言いづらそうにしてるところで迅くんが戻ってきた。 「はい、出来たよ」 すっかり綺麗に修復された携帯が目の前に現れじっと見つめてから、「ありがとう」というと迅くんは手を振りながら去っていった。 その瞬間可愛いメロディが聞こえる… …なんだろうか? 「あ!お風呂沸いたみたい!案内するからこっちきてきて!」 急に引っ張られ、ちょっとバランスを崩しそうになりながらも風呂場に入るとまた驚くような光景が目の前に広がっていた。 脱衣所がやけに広い。 何人かで入れる感じになっているのか、 鏡台の前に2個も椅子があり、 しっかりロッカーまで備え付けられていた… 適当にコーヒー牛乳やお菓子などが透明な冷蔵ケースに入れられている。 「…宿泊施設みたいだね…」 「まぁ、そんなところさ!…一緒に入っちゃう?さっきの話の続き…風呂場でしよっか」 裸の付き合いかぁ… 不意に自分の体の傷を思い出して首を横に振る。 「あー…後で1人で入るよ…?」 「…気にしてるの?傷……春輝くんが着替えやってる時に僕も見ちゃったんだよね…詮索はしないけど、気にしなくていいよ?この家にいるやつで似たようなやついるしさ。」 「…え?」 …同じようなやつ…って… 「それに自慢したいから、…よし!絢世くん!いざ風呂場にGOだよ!GO!」 「えっ、ちょっと…??」 すぐさま脱いで学くんが風呂場に行くが、 ちょっともたついていると戻ってきて『早く〜』なんて言うものだから、もういいやって勢いよく脱ぎ捨て風呂場に直行した。 「え…凄い…」 またもや目の前に広がるのはガラス張りになった夜の街だった。 さっきまでは降っていなかった雪がキラキラと空から降り…街はより一層輝いて見えた。 綺麗だ。 「雪…凄いね!開けていい?」 「開ける?なにを?」 バッと学くんが何かの紐を引っ張ると、ガクンと上の扉が空いてガラス張りの窓の上側だけ少し空き雪が入り込んできた。 寒っ!!!!! 思わず二人で急いで風呂場に入り込み 声を出して笑ってしまった。 「寒いよ!!!」 俺が言うと学くんが「言葉より先に体動いちゃったね、やばいわ〜寒い寒い〜」なんて言いながら手を伸ばし紐を引っ張ってガラス扉を閉めていく。 「……ね、ちょっと僕の話聞いてくれる?」 「……うん?」 お風呂に浸かりながら学くんがため息混じりに話し始めた。 「どうしてここにいるのかって話……… 僕はさ、春輝くんに止めてもらってなかったら好きな女の子を何度も……陥れようとしていたかもしれない…」 「どういう…こと?」 学くんは、うーんと風呂場の横にあったアヒルのおもちゃを風呂場に開け放ち、 女の子のアヒルを手に持って掴む。 「……好きな女の子にさ、アプローチの仕方を間違えて……どうにも出来ない感情をぶつける場所がないから…家が金持ちだし、悪い奴らを金で使って…その女の子の人生を台無しにして… 手に入れようとした… 欲しかったんだよ、僕は家にいればなんでも手に入るのに…外に出たらダメダメだから… なんかね…衝動的にめちゃくちゃにしたらいいんじゃ無いかって思ってたの……」 ポイっと浴槽に女の子のアヒルが放たれる。 ゆっくりと進んでいくアヒルが他のやつと仲良さそうに泳ぐ…その奥で風呂から飛び出してしまった、アヒルの子を拾い上げ俺に見せながら。 「ずっと、どっかの輪に入れなかったんだよ、コイツみたいに…」 笑ってるけどなんだか…寂しそうだ。 なんでそんな話をしたんだろうか。 「…僕ね、でも……お金じゃ埋まらないものをさ…ここに来て、もらえたんだよね……女の子のことも諦めがついた…春輝くんに何回も何回も殴られて……全然勝てなくて弱くてさ…… なんかさ…僕って惨めだなって思い知ったよ。」 「…そうなんだ…?でも、俺を助けてくれた時は動けてたよ?」 …思い出すのは出会った時の事。 …そう、気持ち悪い動きだし不恰好だけど、 ちゃんと決まってた… 「やっとだよね…変わりたくて、変わってきたのは…ここにきたから…そういう奴らの集まりがここ…この家なんだよ」 説明を詳しくするという感じでは無かったが、 なんとなくわかる。 春輝くんが関わっているメンバーがここに集まってるってことか…… 「絢世くん、君もここに居たら何かみつかるんじゃないかな?」 「え?」 それは急な話だった、彼の口から言われて決めていい話でもないし… お父さんにまた帰って怒られるのもわかってる… でも帰りたくないし。 どうしたいのか、全然わからない。 「……いいのかな?」 「事情とかわからないけど、春輝くんは凄い心配してたよ?」 「……なんで??」 「…さぁ…」 心配された?なんでだろう… わからないまま、 その後はたわいもない会話をして風呂を上がる。 脱衣所で髪を乾かしていると、賑やかな声がした。 「あーーーーそこ♡気持ちいい…あと2分ね」 「まじ…くそ…っ…」 なんだ?何が起きてるんだ? 学くんと部屋から戻ってくると 迅くんがソファで春輝くんに踏まれている… …マッサージかな? その横に、また違う人物が居た。 手にシャンパンを4本持ってバタバタと支度しながら何故か行ったり来たりして「俺もして欲しい…」とか、ぶつぶつ言いながらマッサージする2人の横に座り込んだ。 それをみた学くんが、俺に耳打ちをして。 「アイツね春輝くんが好きなんだって、いつもあんな感じだから気にしないであげて」と言ってきた。 つまり…あれか? 同性愛ってやつかな…最近増えてるとは聞いたりするけど…踏まれたいのかな?? 「あーーー!仕事行ってくる!!!!」 イライラしながら学くんにぶつかりつつ、 俺と目が合うが逸らして玄関へと彼は向かっていった。 「はい、終わり」 それを、なかったかのように春輝くんが迅くんから離れるとソファの上で迅くんがゴロゴロしながら 「最高だった〜あいつタイミング本当に良くて可愛いよね〜♡」なんてニヤニヤしている。 さっきの人を揶揄いたかったのか、…なんなのか。 「さて、本題に入ろうか…」 ドサッと紙袋を机の上に置いて迅くんがふんぞり返って座っている。 「僕、お茶持ってきますね」 学くんがリビングに向かっていくのをみながら、 ぼーっとしてると、春輝くんが手招きしてくれた。 「絢世も聞く?」 「……う、うん?」 ソファに座って紙袋を広げると、 真っ黒な粉が入った袋がいくつも出てくる。 ………ヤク物。 直感だけど身体が強張った。 医者志望として…歩もうとしているからだからだろうか、みたことのある包装紙が気持ち悪い感じだった。 「絢世、その顔だと大体見当はつく?」 「う…うん…薬物かな?…なんでこんなものが?」 春輝くんは深いため息をつく。 「…それは俺が聞きたいよ」 残念そうな声と眉間に寄った皺が、何か複雑な事情が絡んでるように感じた。 「ねぇ、絢世……ちょっと手伝って来んない?」 「え?」 「…医療系志望なんだよな…ちょっとでいいから人助けの為に力貸してよ…一回でもいい」 急な申し出に息を呑んだ。 やりたくなかったけど行かなきゃいけない先がある…それを使う道か… 何で…知ってるんだろう… 「詳しく、聞いていい?」 俺の質問に春輝くんは、そっと頷いた。 … 東明迅。 …彼は、いろんな人間のデータも収集している。 絢世の事も奴からいろいろ言われて前々から少し気になっては居た… 本人の内情は知らない… ただ家庭環境は複雑そうだという事だけは何となくわかった。 目についたのは“医療系”の家だということ。 俺自身が京極ゆかりと縁を切り、 彼女には一切、力を借りないと約束をしたせいで、 一歩踏み出せずにいた。 そんな時だ、 学から一本の電話がかかる。 『春輝くん、ちょっと助けて』 …事情を聞いて現地に行くと、 倒れる絢世が寝言なのか本気なのか「病院は嫌だ、救急車は呼ばないで」とずっと言い続けていた。 迅に車を出してもらっていたから全員で乗り込んで、家まで運ぶとずっと呟いていた苦しそうな言葉は消え、ただ静かに寝息が聞こえた。 服を着せ替えながら 身体中にできた傷を見て不意に思う。 これは、もしかしたら… 絢世に協力してもらうチャンスかもしれない… どうしても今この家に足りないのは、 救護というのに長けてる人物だ。 …いつもなら、ゆかりにお願いするところだったが…アイツにはもう“大切な人”が居て、 その人と結ばれて幸せになることが何よりも良い道で… 『私ね、拓海くんと一緒なら大丈夫そう…』 たった一言だけ、それを聞いたら、 もう何も言えなかったし、 頼ろうという気には…なれなかった… その話しの後か… 志騎高の学園祭の後、莉桜ちゃんと剣ヶ崎高校の夜の学園祭に乗り込んだ。 お化けになって、 いろんなやつを驚かそうとしたんだ… ただまぁ…あの時は驚かす前にちょっと莉桜ちゃんと話し込んじゃったから… お化け役なんかやってる暇なかったんだけど。 …そのサクラ役として絢世が来てくれた。 …俺も心配されたりするが… 寧ろ、絢世の方がこの世から消えてしまいそうな儚い印象を俺は見てしまった。 …なんで、傷があるんだろうか。 不意に見えた体の傷は、喧嘩をするにしては、 まるで鋭利な刃物で切られたような。 … 違和感。 あの日から、忘れられずに迅に調べてもらっていた…プライバシーとかもあるし、 こんな真似するのは良くないけど、 ただなんとなく、気になってた。 “自殺未遂”は俺もつい最近やったから、 ……心のどっかで絢世と俺を重ねて見てしまったのかもしれない。 彼に足りない何か… それが気になって仕方なかった。 ……… 「まぁ、そういう訳でさ…絢世のこと調べさせてもらっちゃったんだけど…」 俺が少しだけ緊張しながら言うと、 絢世は何とも無いように「気にしないで」と言ってから口にお茶を運んだ。 リラックスしてきてるんだろうか、 さっきよりは優しい顔になってるな。 「……まぁ、絢世にして欲しいことは、こっち…」 薬の袋とは別で絢世に渡したのは、 瓶に入った液体とゆかりの書いたであろう資料を渡す。 「結構、危ないことに巻き込むかもしれないけど…絢世が引き受けてくれるなら…お前が欲しいもの…出来る限りやるからさ、取引しない?」 その言葉の後、暫くの沈黙が訪れた。 絢世は暫く黙って資料に目を通すと「いいよ」とひとこと言った後に、 「…でも、ひとつだけ…多分なんだけど…この薬に使う重要なものが謎解きみたいになってるんだぁ………聞いてみないとわからないかも?」 「…まじか…」 1番困るパターンだったが、やっぱりそうかと頭を悩ませた… なんとなくだが場所は解けている… ただ、昔から謎解きとか好きでアイツがやりそうなこと… 誰にでも解けるような資料は作らないか… 「あんまり話したく無いし…勘づかれたくねぇんだけど…なんとかなる?その薬、どうしても欲しいんだよ…」 「そっか…やってみるね?」 資料を眺めてる絢世は感情が読み取りづらい感じだったが、一息ついてから辺りを見回し自分のバックから紙やノートを取り出して何かを書いていた。 暫くして「俺、一回帰る…」と立ち上がった。 「大丈夫か?」 俺のかけた言葉には、 さっきの“父親に怒られる”というのと“自殺願望”についてが引っかかっていた。 「平気だよ…すぐ戻るよ…ちゃんと学校も行かないとまた…怒られるから…あと…家で試したいことがあるからさ…」 そう言って「資料ちょっと借りていい?」と言われたから持ち出す許可をした。 誰の手に渡ろうが解読は難しいだろうし… こっちに原本もあるから気にならないしな。 絢世が悪いやつとも思えないし。 ただ、不意に出ていこうとする絢世が、 なんだか消えそうに見えて、 玄関先で腕を掴んで抱きしめた。 「待ってるからな」 「?」 絢世は不思議そうな顔をしていたが、 きっと、俺は今まで… 絢世みたいに見えてだんだろう…か… 今はみんなの前から消えてしまったが。 もう、そういうの。 辞めたいな… …どれだけ足掻いて、苦しい夜を超えて、 それでも生きていかなきゃいけないなら。 “逃げない” 誰かの居場所になれるなら、 俺はいくらでも、力になる。 ずっと、 それは、はじめから今も変わらない。 「戻ってきたら絢世の欲しいものもさ、教えて…あ、電話番号…」 このマンションは出るのは楽だが入りづらい為、 近くまできたら電話するように伝えると、 絢世が「わかった」と言って出て行った。 …俺、なんで男を抱きしめてんだろ。 なんて疑問に思ったが… まぁ、深い意味は無いし… 頼むぞ絢世… それを後ろから見ていた迅が「よかったの?」と聞いてきた。 …実は、迷ってた… 絢世からもっと話を聞いて… いろいろと教えてもらってから 家に返したかったけど、 なんか違う… 絢世から話してくれるようになるまでは、 俺が頼らないといけない気がした。 まるで、氷みたいに壁があるから、 溶かすまでには時間がいるような気がする。 笑って誤魔化せるような人間… …そう、 俺みたいにさ… きっと、絢世も似てるような気がしたから、 だから… 俺は待つよ。 ……待れば、の話だけどな。 …… 家に帰ったら案の定、 お父さんから叱られた…… 医大に受かった通知も、全然嬉しくない。 「当たり前だ」なんて言われて。 うん、そうだよね。 当たり前、 誰かの当たり前は、俺の当たり前とは違う。 欲しくても手に入らないもの、 もう後に戻れないもの。 わかってるけど… 帰ってから、 手当てされた身体の包帯を触って考えていた。 … 不意に自宅の部屋の奥にあった破られたレシピのノートを掴む。 ずっとずっと捨てられなくて大切にしてきたけど、 濡れちゃったし、抜けてるところもあるし… お母さんが大事にしていたレシピ本… これだけは… 何としても守ってきた… お父さんに捨てられなくて良かったな。 これ、一緒に作ってくれるかな。 何回も自分でやったのに全然うまくできなくて。 … これ、食べたいなぁ… …レシピを横目に携帯を取る。 アドレス帳にあった“京極ゆかり”の文字を見つめて、思い切って電話をする。 最近話してなかったけど… どうなんだろう… 本当は…駄目なんだろうけど。 絶対わからないと思ったんだ。 … 薬の作り方はわかっても肝心の大事な材料は……知らない場所に隠されている。 材料の肝心な部分だけ変な暗号だったし、 なら、 聞かなきゃダメだし… 不意に天井の照明に透かしたら鍵のような形に見えた… 多分…鍵が必要なんだ。 『もしもし…?』 優しい声がした、前にあった時とは何だか雰囲気が違うなぁ… 「突然ごめんね…教えて欲しいことがあって」 『……もしかして、春輝の話?』 向こうから急に強く言われ、 かなり春輝くんを心配していることがわかったし、 ……誰かに心配されてるってなんか、 ちょっと羨ましいな…… 「…うん…、鍵って言ったらわかる?」 その言葉の後に沈黙が訪れた。 何かを考えてるのか…黙り込んでいる。 ドキドキと俺の心臓が動く。 …生きてるって感じがした。 なんだろう、急に体が熱くなってきた。 『絢世くん…春輝の事…守ってあげて…』 鍵の話からは逸れた返事が返ってきた。 「…どうしたの?」 震えるような、絞り出すような声が電話越しに響いて驚いた。 『きっと私は…ここまでだって言われてるんだなって思ったの……』 泣いてる。 声がちょっと上ずっていて… 感情的にならなそうな人だったけど、 それだけで印象が変わった。 『絢世くん、お願いね…』 「……わかった」 春輝くんが帰り際、俺を抱きしめてきた時に もしかしたら…凄く寂しがり屋のようにも見えて、 誰かそばにいて欲しいって思ってるように感じて… …俺もたまに、そんな衝動が湧いてくるから、 わかるなぁって思った。 守る… …… 居場所… か… 楽しそうだったな… どうしてあの場所に居るのか… 事情は今のところわからないけど… きっとあの場所は、 春輝くん自身の居場所で、 みんなの居場所なんだろうなぁ… 俺も守れるのかな? ……今、頼られてる…… そういう場所が欲しかったのかもしれない… 『絢世くん?』 俺の返事が中途半端になったまま、 黙り込んでいたら電話から声がして、ハッとした。 「あ、ちょっと考えごと…」 思わず自分の欲が出てしまって、 慌てていると、電話越しに笑い声がした。 優しい声だなぁ… … 『…まるみ屋商店があった場所は今空き地になってるのだけど…結局あの場所は空き地に見えて私が買ったままなの…その場所に不自然なマンホールのような入口があるから入って……奥に進んで』 「…うん…」 「夜だけど…今から出れる?」 俺が承諾すると現地で落ち合う話になったが、 誰かに見られたら困るからと結局、 マンホール奥に進んだら手紙と鍵が取っ手にぶら下がっていた… “開けたら中にあるわ” それだけ書いてあるのを確認して、 鍵で中に入る… 無数の材料がそこには存在した。 その中に探していた暗号と同じように数字や記号が書いてある瓶がある。 ここで、今すぐにでも…作れる… 不意に春輝くんから受け取った紙を見て、 やってみよう。 …… 時間がどれほど経ったのか、 多分、夢中になって丸一日は居たような気がする。 お菓子を持っていたから、 お菓子さえ食べてれば平気だ。 「できた!!!」 思わず声が地下に響いた。 普段薬の調合とかそこまでやったことなかったけど、割と楽しいかもしれない。 医療関係の勉強とか、父親の手伝いをしていてよかったなぁなんて今やっと思えた気がする。 思わず春輝くんに電話すると、 すぐさま出て「どうした?」と言われて、 クスッと笑ってしまう。 電話に出るの早いなぁ… 心配してくれたのかなぁ? 「出来たよ!薬!」 嬉しくて、そのまま伝えると『まじ?ありがとう!!』と電話越しなのに俺に合わせたように声のトーンが上がった。 『絢世どこにいる?』 俺は、この場所を伝えるか悩んで… 秘密にすることにした。 多分なんだけど、誰でも入っていじっていいようなものじゃない… 俺でも知らないやつとか、 扱うのが難しそうなやつばっかだ。 …… 「そっち行っていい?」 俺が聞くと了解してくれてホッとする。 いつかバレるのかもしれないけど… 今はまだ… 少し大きめな瓶に出来上がった薬を詰めた。 材料も荷物の中にちょっとずつ移す。 不意に置かれたノートを手に取って、 何かの役に立つかもとバックに詰めた。 しっかり薬剤が入る強力なバックだから重たいな… 鍵を閉めてマンホールを開け外に出る。 そこに一台の車が停まっていて、 目の前に… 「春輝…くん…」 わかってたのか…? 「鍵もらったの?」 「あはは…凄いね…」 思わず冷や汗が出た、 春輝くんの表情が見えずらいから怖い。 俺が逃げるように隠すように、 そんな態度をとったように見えたかな? 隠したかった訳じゃなくて… 怒られる?…殴られる?…どうしよう… 手が震えた。 俺が嘘をつくと、碌なことがない… わかってるのに… 「絢世、鍵ありがとうね…巻き込んじゃったけどさ………お前さ俺のために生きてよ…お前にしか出来ないことだから……薬はお前にしか頼めないと思うんだ…」 急に優しく肩を叩かれた。 俺にしか出来ないこと? 「とりあえず乗ろ?」 車の中には強面な運転手が居た。 タトゥーだらけなのが車内が暗くてもわかる。 …可愛くウインクされて怖いけど悪い人じゃなさそう。 車の中に乗り込むと春輝くんが隣でため息をつく 「あーー、もう電話ないかと思ってた…」 困ったように眉間に皺が寄りながら、 春輝くんが声を上げた。 「…ちょっと考えてて…」 「わかってるよ、わかってんの…わかってるけど待つの苦手なんだよなぁ…」 子供っぽく口を尖らせながら俺の腰についたうさぎのポーチを突っついてきた。 可愛いところもあるんだな… あれ?高校二年生か…俺の方が上なのに振る舞い方が大人っぽい時があるから混乱してた。 まだ、子供… まだ、高校生なんだよね… 「春輝くん…聞いて、ちゃんと話すから」 「ん?」 俺の話、してみよう。 薬の入ったバックをぎゅっと握り締めながら、 何かに導かれるように自分のことを話し出した。 俺は小さい時から父に兄と比べられていた。 悪い成績を取ったりする訳ではないが、 出来損ないとか…恥晒しだと言われて育った… ずっと母親だけが俺の味方で。 母に慰めて貰うことで、 なんとか壊れそうな幼心をつなぎとめていた。 こっそりと作ってくれる母のお菓子が大好きで、 今でもお菓子が好き… うさぎのポシェットにずっと入れて持ち歩いてる。 なによりもの安定剤だった。 でも、10歳の時に母が病死すると、 父と兄からの暴力や暴言は更に酷くなっていった。 助けてくれる母が居なくなって… でも生きなきゃいけない気がして。 『痛いことや辛いことが自分は好きだ。自分は痛いことが嬉しいんだ。』 なんて言い聞かせて耐えたら、 『死にたい』って不意に思うようになっていた。 小中はエスカレーター式の私立学校だったけど、 中学3年生になりたての時、塾の帰り道、 どこかの学校の生徒にカツアゲをされて初めてヤンキーという人種に触れた… …親に反抗してみたい。 そう思った結果、留年するまでになったけど… 今年嫌々ながら医大に行く事になった。 痛いことが好き…? 最早わからなくなっていた… 好きというか、 痛みがあると生きてる感じがする。 でも段々苦しくて死にたくなる。 喧嘩も嫌いじゃないけど、 やり返すより、やられてる方が気持ちいい… 気味が悪いってよく言われたな… 寂しさを紛らわすためにあまり家には帰らず、 友達の家を点々としたり、 ネカフェやゲーセン、カラオケで夜を過ごしたり、ホテル暮しをしてたけど、 最近は医大に行くためにって教育するからと、 父親からの鬼電が入るから帰らないといけない。 母はいつも言っていた… 口癖のように… 『みんなと優しく、人を思いやれる子になりなさい』 なのに、なのに…嘘ついちゃった… 不意に涙が溢れてきた。 「ごめんね…ごめんねぇ…」 春輝くんの前で思わず泣きじゃくる子供みたいになっていた。 今すぐ死にたい… 隠したりするような素振りばっかしてる… 何で?なんでかな… 春輝くんが嫌いって訳じゃないんだよ…? でも…苦しい… 「優しいんだな。」 また頭を撫でられた。 泣いてしまってるから 春輝君が どんな顔をしてるかわからないけど、 優しく話しかけてくれる。 「優しくて、怖がりで、寂しがり屋…」 「…」 不意に春輝くんの方を見ると、 悲しそうに笑って「俺に似てる」と言った。 やっぱり、そうなのかな? 俺も何となく…そんな気がしてた。 そう思ったら不意に笑ってしまった。 「変なの〜」と俺がいうと春輝くんは「絢世の顔の方が変だよ?」と言って2人で笑った。 泣き後でボロボロなんだろうなぁ… 嫌だなぁ… …なんか、泣いてばっかだな… でも凄い、スッキリした。 … 「俺もね、母親がいなくてさ…親父から過保護にされて育ったんだよ…」 「そうなの?」 「絢世のは強制的だけど、なんかちょっと似てる感じがした…」 それを言った後、「うーん」と悩むようしながら、 「まぁ…違いがあるとするなら戦ってるか戦ってないか…」 そう言われて頭の上に「?」を浮かべてしまう。 戦ってるか… 戦ってないか… 「絢世は逃げてる…俺は足掻いてる……のかもな?……俺はね、どうにかしたいんだよ…この心の中に空いた穴を埋めたくて」 …解る…かも… そうなんだ…… あいてる… 変な空洞が胸の中にある… そこに痛みが来れば埋まる気がしたのに… 全然埋まらない。 「絢世、やって欲しいこと考えてきた?」 「!」 それを言われて思い出したかのようにレシピを見せると直ぐに24時間営業しているスーパーで買い物をして、春輝くんの家に行った。 駐車場に入る訳ではなく運転してくれていた男性は用事があるからと何処かへ行ってしまった。 玄関を開けると特に人は居なくて静かで、 広々した部屋が寂しげだ。 … 「絢世、疲れただろ?…今日は寝て行けよ」 春輝くんの言葉を聞いたら、 確かに寝てなかったからか急な眠気がくる。 「風呂とかご飯適当に作れるけど…布団は、この間の部屋空いてるから使っていいよ?」 「ありがとう〜…寝ようかな…」 荷物を下ろして、目を擦りながら言うと、 目の前にカードを差し出される。 「なぁ、絢世…俺たちの仲間にならないか?…これ、家の鍵だから好きに出入りしていいよ…」 「え?」 眠気が覚めるような気持ちだった。 願っても見ない話なんだけど、 さっき謝ったので許してくれたのかな? 不思議そうな顔をしてると春輝くんは、 ため息混じりに、 「絢世は、もっとプラス思考になって欲しいなぁ〜…」 なんて、笑いながら言われた。 「…信用してるから、言ってんの…それにこのカードは悪用できないから…迅に聞いたら仕掛けは教えてくれるけど、説明しなくても言ったらわかるよな?」 ニヤリと笑う顔に“なるほど”と納得した。 仕掛けは聞かなくても何となく嫌な予感しかしなかった。 「どうする?」 「……好きに出入りしていいの?」 「うん、絢世が来たいときに来てよ…俺が助けて欲しいときに助けて…それだけでいいから」 都合がいい話だけど、 もしかしたら、ここにいたら、 俺の心の中も埋まるかな。 「春輝くんを守るよ」 カードキーを取りながら俺が口にすると、 驚いた顔をしてから、優しく笑って 「何言ってんだよ」なんて照れ隠しをしながらなのか、俺の眉間を小突いてきた。 早く寝るように促されて、 布団に潜る。 …この部屋を好きに使っていいのか… クローゼットやベット、机はあるけど、 8畳くらいはあるかな… 広いなぁ… 学校卒業して、医大に行って、 辛い毎日かなって思っていたけど… 平気そう… お母さん…俺きっと、誰かの役に立つよ。 見ててね… 優しくて強い子になるから。 そんなことを思いながら布団に入り込むと、 いつの間にか眠っていた。 …… 柔らかい日差しで目が覚める。 カーテンを開けっぱなしにしていたからか… 眩しいなぁ… 「まってまって、まだ食うなよ!!!」 知らない声が扉の向こうからした。 「お腹すいた…まだかなぁ新入り」 「今日起きんの?」 結構人数が居るのか…ガヤガヤしている… 扉をゆっくり開けると、 春輝くんが目の前にいてビックリした。 「…あ、起こしに行こうとしたら起きた…はよ。」 「おはよ〜…」 キラキラとした世界… それに、たくさんの人と… 風船?ぬいぐるみ? うるさいくらいの飾りが目立っていた。 華やかだけど今日は誕生日とかかな? 「絢世、今日からよろしくな」 「え?」 俺が目をパチクリしてると学くんが腕を引っ張ってきて、ソファに促される。 「全部、絢世くんのためにみんなで準備したんだから喜んでよ!!!ボクたちの仲間になんでしょ?…あれ??違った???」 「う、うん!よろしく!!!」 俺のためにこんな豪華なセットを準備してくれたのか…朝から凄い派手に飾り付けされてて目が痛いくらいで笑ってしまっていた。 誕生日でもないのになぁ… 「あ、乾杯の前にこれ食ってみて」 目の前にマフィンが出てきた、 お母さんのレシピのやつだ…そっくり… 「……」 そっと手にとって食べてみたら、 懐かしい味がした。 全然自分で作ったのとは違う。 「なん…で…?…美味しい…」 不意に嬉しさで喉に通らなくて、 涙が出そうなのを堪えていると 「当たり前じゃん、だって俺たちが絢世の為に作ったんだからさ…お前が書き起こしたレシピそのまま作ったんだよ?」 なんて言われて、 「え?」と、俺が何かを言う前に「よっしゃ、乾杯するぞ!!」なんて春輝くんの一言でみんなが騒ぎ出すものだから、そこからパーティーは破茶滅茶になって昼過ぎまで大騒ぎだった。 …パーティーの最中、 俺みたいに体に傷がある子がいるのを見かけた… 学くんがいっていたような話が本当なら、 みんなのことも知りたいなぁ… …薬の事も、 …これから先の事も、 …俺に何ができるのかわからないけど。 ここで俺は俺の“居場所”を探してみようと思う。 …… もう少し、生きてみようかな。 END
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