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カランカラン…… 私が店のドアを開けると同時に、ドアに付いているベルが鳴った。 「いらっしゃいま──あら、とびらちゃん!」 受付の周りを整理していた、天方くんのお母さんが、私に気付き笑顔を向けてくれる。 Sweets Heavenlyを訪れる回数は増えてきている。もちろん、ケーキを買いに来ているが、天方くんに会うためでもある。 天方くんも私も、帰宅部でバイトもしていないので、放課後は時間がある。だから、天方くんの部屋で本を読んだり、勉強したりして過ごそう! となったのだ。 元々は、本の貸し借りだけだったが、無料通話で長々と本の感想を語ったり、ビデオ通話でわからない勉強などを教えてもらったりしていまい、効率が悪いことに気が付いた。それから、放課後はSweets Heavenlyでお互いの時間を共有し合うことにしたのだ。 今日もケーキを買ってから、二階にある天方くんの部屋に向かう予定だ。 「フルーツタルトを一つ、お願いします!」 「はーい、いつもありがとうね。」 「いえいえ! こちらこそいつも部屋にあがらせて頂いて、ありがとうございます。」 天方くんのお母さんは、天方くんと同じようにツヤ感のあるサラサラの髪の毛を耳下でひとつにまとめている。 化粧も薄く、めいいっぱい着飾ろうとしない。彼女は“品のある綺麗な女性”という言葉がぴったりだった。 「とびらちゃん、ゆっくりしていってね。」 眉と目尻を下げて微笑む彼女を見て、やっぱり親子だな と思った。 外階段を上り、天方くんの部屋をたずねる。 ドアが開き、天方くんが出てきた。 「とびら。」 なぜか知らないが、天方くんの私への挨拶は私の名前を呼ぶことらしい。 「天方くん、こんにちは。今日もお邪魔します。」 部屋にあがらせてもらい、先程のフルーツタルトをテーブルに置いた。 ふと、床に置いてある本に目がいった。 “ダンデライオン2” 「えっ……!!」 「ん? ……ああ、これ。」 私が何に驚いたのか気づいたようで、“ダンデライオン2”をこちらに渡してきた。 「とびらから、“ダンデライオン”借りて読んでみたら、意外と俺に合う本でさ。2が出てたから買っちゃったんだよね。」 「私も2は、読んだよ! 天方くんに合う本でよかった。世界観がほんとに良いよね。設定が細かくて、内容も濃い!!」 「うん。しかも、読んだあとスッキリするんだよな。でも、これ少し女向け寄りだから学校で読めないんだよな。」 「ふふっ、確かにこの本を天方くんが真剣に読んでたら笑っちゃうかも。」 「もう笑ってるけどな。」 天方くんの言葉に、ごめんごめんと再び笑いながら返した。 やっぱり、この感じ好きだ。天方くんと変な会話して、自然に笑顔になれるこの感じ。 「同じ学年だったら良かったのになぁ。」 私はぽつりと呟いた。たぶん、私の本音だ。 「え、?」 天方くんは、不思議そうに首を傾げた。 彼のサラサラの髪が揺れる。 「あ、天方くんと同じ学年だったら良かったなって思っちゃった。最近、会うこと多くなって、割と仲良くなれたし……」 私は、言いながらだんだん恥ずかしくなってきた。 「そうだな。」 天方くんが相づちをした後、お互いに少し気まずくなり沈黙が続く。 この沈黙も別に嫌いじゃない。 「そういえばさ、」 沈黙を破ったのは、天方くんのほうだった。 「球技大会、もうすぐあるよな。とびらが球技やってるとこ見てみたい。とびら、運動音痴そうだな。」 「えー、酷いよ! でも、確かに私は見る専門だよ。」 「見る専門って、ずるくない?」 「……ほんとは、やりたいけどさ。」 ──病気、だから。 私だって、球技大会に出たい。 でも、小学生、中学生の時も球技大会は出られなかった。 一番やってみたかったのは、バレーボール。中学2年の時、バレーをやりたくて家で隠れて練習をした。初めてやるバレーはとても楽しかった。楽しくなるにつれて、練習時間がどんどんのびていった。結局、軽い心臓発作が起きてしまった。 ……できなかった。 みんなが普通にやっていることも、私にとっては負担が大きすぎる。 もうすぐ球技大会が始まる。 今年も私は見ているだけ。 でも、本当はクラスで力を合わせて何かをしてみたい。 今日も私は、何もできない自分にうんざりしていた。
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