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週明けの就業時間終了後すぐに、妙子の部署に遼一が現れた。
妙子のデスクの横に立つと妙子に声をかける。
まだ仕事が残っていた妙子は、デスクチェアに腰掛けたまま顔を上げ、遼一を見上げびっくりした。
「まだ帰ってなくて良かった。先日は驚かせてすみませんでした」
「え?あ、いえ」
部署内で、あの夜のことを謝られるとは思っていなかったので妙子は固まる。
「残業ですか?」
デスクに広がっている書類を見ながら遼一は尋ねる。
「ええ、キリの良いところまで。すぐ終わると思いますが」
妙子は笑顔で返すが、いきなり間近に遼一がいることで胸はドキドキしていた。
「少しお話があるんですけど、この後時間大丈夫ですか?」
「え?」
遼一の誘いに妙子はビクッとした。
良い誘いではなく、先日の事だと思ったからだ。
「下のカフェでお茶してます。来るまで待ってますから」
遼一はそう言って部署を出て行った。
妙子はその後ろ姿を見つめながら、先日見てしまった事で何を言われるのか不安になって来る。
「繭村さん!生島さんとこの後会うんですか?」
帰ろうとしていた後輩の女子社員が妙子に詰め寄る。
「あの、ちょっと話があるだけで。もちろん、仕事のことだけど」
妙子は咄嗟に嘘をついた。
「仕事のことだってぐらい分かりますよ!だって二人が付き合ってるとか考えられないし!でも良いなぁ。生島さんと二人っきりで会うなんて」
今時の若い子は、言葉にオブラートをかけることも知らないんだなとムッとしながらも、妙子は遼一に呼び出されたことが気になって仕方ない。
先日見てしまった、どう見ても恋人同士だった二人の姿。
叶わない恋だと知り、この週末妙子は自分の気持ちにピリオドを打っていた。
もう遼一となるべく関わりたくなかった。
そう頭の中で思っていても、何故か心の中は暖かくて、遼一に誘われたことが嬉しかった。
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