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そこには……何もなかった。
それを頼りに、俺は歩いてきたのに……
でも……だとしても、歩き続けないといけない。
後ろを見ても、誰もいなかった。
さっきまで、あんなに大勢いたのにな……
ああ……なんだか、怒りが湧いてきた。
どうして俺は歩いているんだ?
こんなに辛い思いをしてまで歩く理由が、どこにある?
一緒に帰ろうと誘ってくる奴は何人もいた。
「そのときに……そんとき一緒に! 諦めて帰ってしまえばよかったんだ!」
こんなことを口に出しても、もう誰も反応してくれない。
どんなに自暴自棄になったって、止めてくれる人すらいないんだ……
「そうだ……もう、諦めてしまおう」
ここで諦めても、誰も責めてくることはないんだから。
そう思い、俺は後ろを振り返った。
「あの……もしかして、帰ってしまうんですか?」
そこには、女の子がいた。
さっきまでいなかったのに、どこから現れたんだ?
「え……ああ、そのつもりだ」
「そうですか……それは残念です……」
女の子は、とても残念そうな顔で俯いた。
そして、意を決したのか、再び歩き始めた。
「なあ……少しだけ聞かせてくれないか?」
「はい? なんでしょう?」
「どうして……俺が帰るだけで、そんな残念そうにするんだ?」
この子がいつどこで現れたかなんて、もう……どうでもよかった。
それより、どうして残念そうにしているのか、気になって仕方がなかった。
「それは……あなたの足跡が、とても大きくて見やすいからですよ!」
「は? 大きい?」
ふと、自分の足下を見てみた。
昔から小さいとバカにされていた、俺の足跡……
そこにあったのは、信じられないぐらい大きい足跡だった。
「これ……俺の足跡なのか?」
「そうですよ! 私はこれを頼りにして、今まで歩いてきたんですから!」
……俺は今まで、憧れの人を頼りに歩いてきた。
そうか……いつの間にか、あの人を超えるぐらい、大きな足跡を残せるようになったんだな……
そして、それを頼りにして歩く女の子まで現れるようになった。
これを見て、あの人はどんな顔をしてくれるだろうか。
きっと、まだまだ未熟者だな! とか言って、笑ってくるんだろうな。
「でも、あなたは帰ってしまうんですよね? それなら、私が新しく作っていくだけです!」
そう言って、女の子は俺の先を行こうとする。
「おい……待てよ、未熟者」
あのときに言われた言葉を、無意識に、口に出していた。
「作んのは俺の仕事だ。未熟者が……一丁前に作ろうとすんな」
ポカーンとしている女の子を置き去りにする。
俺は……アシアは、新たな一歩を踏み出した。
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