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昔々、あれは夏の夜のことだった。
いつもならとっくに眠っている時間に、私は両親に外へ連れ出された。そんなことをするなんて、私をいつも守りの刺繍でぐるぐる巻きにしていた両親にしては珍しかった。
もっとも、父は守りの木札をこれでもかと私に付けさせるのは忘れなかったがね。その木札がぶつかり合う、カラン、カランという音と、静かに草を踏む音を妙に覚えている。
水が入ったガラスの中、人形の上にきらきら輝く雪が降る、そんなオモチャを見たことがないか?
その夜は、まるでその中にいるようだった。
満天の星は、宝石をたくさん撒いたみたいに綺麗だった。
『きれいなお星さまだね』
私は父に無邪気にそう言った。
そして、つかめもしないのに空に向かって手を伸ばした。本当に、星がすぐそばで瞬いている気がしたんだ。
私を抱いていた父は頷いた。だけど、その夜空のような目は、どこか寂しそうだった。
『見て。駆けていくわ』
隣に立っていた母が声を上げた。
見上げれば、輝く星たちがいっせいに流れていくところだった。帚星の尾が、絹糸で天を縫うように現れては消えていく。その光が一つ、また一つと見えなくなる瞬間、草原は昼間のように明るくなった。
『お星さまたちは、どこへ行くの?』
恐らく海のほうだ、そうわかっていても私は聞かずにはいられなかった。
『楽園に行くのよ。永遠の約束された土地』
そう言って、母は私の頭を優しく撫でた。
いろんな花の色がとけたような、不思議な母の瞳を私はのぞきこんだ。
『いずれ、みんなそこに行くの?』
私の問いに、善行を積まねばと母は言った。
そうでなければ自分たちは楽園に行くことを許されず、いずれはとけて消えてしまうのだという。
『あなたのお父さまは命をかけて戦い、民を守っているわ』
『母上は、魔法でたくさんのひとびとを助けている』
二人は同時にそう言った。
その後にお互い見つめ合って、私に微笑んでみせた。
その夜空と、花の瞳を交互に見て私は思った。とても強い、このようなひとたちになりたいと。
――だが、私は一体なにものになったのか。
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