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プロクスはロバのアシリータと共にのんびり家路を行く。なだらかな斜面、その左右には畑。そして、その奥にある家も周囲は緑で満ちていた。赤茶の屋根のどこにでもあるような小さな家だったが、彼女はとてもここが気に入っていた。
「はい、今日もご苦労様でした」
プロクスは家の隣にある馬小屋で、アシリータを解放した。アシリータがそのままお気に入りの干し草のベッドの上に座ると、プロクスも一緒に腰掛ける。
そのあたたかな背中に身を預け、プロクスはふふっと笑った。
「……賭けは、私の勝ちだ」
彼女は夢見ている。
翼を獲て、虹色の海を渡るのを。
そのために、たくさんの勝負に挑んできた。時には負けることもあったが、こうしてプロクスは生き残ってきた。老後は安泰、願いを叶えるのはもうすぐだと思っていた。
✧ ✧ ✧
だが、世の中とはそううまくいかないものだ。
二週間後――。
彼女は、冷たい牢の中にいた。
生臭い風が吹く薄暗い塔の中、真っ暗な底なしの宙に鳥かごの牢は吊されていた。
プロクスは薄汚れ、ぼろぼろの姿で、鎖が揺れる空を見上げていた。鉄の錆び付いた棒を握りしめ、差し込む強烈な光に手のひらを透かす。
(まるで、井戸の中のようだ)
ぼんやり思うプロクスの顔を、蜘蛛の糸のような黒い水が覆っていく。
やがて、彼女の視界は真っ暗になった。
プロクス=ハイキングが「弟子」に囚われるまで、あともう少し――。
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