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『すまない、時間かかった!やっとログインできt25h@08fwん@smp:いdk0@95twりおたのむきーぼーどの上通らないでくjrfq0@mwだから座らな』
『……猫はケージ入れておいてください、坂田さん』
『遅くなってすまない今日の狩りは山の方でいいのか』
『宇津木さんは寝ぼけてないでいい加減おきてくださいここ会社のチャットですゲームのチャットじゃないです』
『…………遅刻して、ごめんなさい。ついでに生きててごめんなさい』
『何があったんですか佐藤さん!?』
『………もうしわけありませんでした』
『……生きてますか田中さん』
ようやくそろったとはいえ、こんな有様で会議になるんだろうか。俺が頭を抱えた時だった。
『すまんすまん!やっとろぐいんができた!いやあ、遅れて悪かったな、これで書き込みできてるか?』
社長登場。ああこれでやっと勢揃いだ、と思った瞬間。
「あ」
どうやら社長は、うっかりテレビ通話のボタンを押してしまったらしい。課長の画面に被るようにして、社長の通話画面が大映しになる。
社長、テレビ通話になっちゃってますよ、と書き込もうとした俺は。
「ぶふっ」
思わず、画面の前でお茶を吹いていた。
確かに、社長は本来チャットだけで参加するつもりでいたのだろう。だから、家の中の片づけとかも全部あとまわしになってしまっていたのかもしれない。事実、他の社員はともかく、機械音痴の社長にテレビ通話まで求めるのは酷だとみんな思っていたのは確かである。
だからといって。
『hstしゃちょう』
あ、いけない。誤字ったまんま送信してしまった。
いや、でも指が震えて、一体どうすればいいのかさっぱりわからないのだが。
『失礼しました、社長、まちがえてテレビ通話になってます……』
ああ、どうにか送信できた。いやほんと、これ、なんでこれ。
――笑っちゃだめだ笑っちゃだめだ笑っちゃだめだ笑ちゃだめだ笑っちゃだめだっ……!
映し出されたのは。ものすっごいカラフルな、パンツ一丁の社長。
バックには、萌え系アニメの女の子の超巨大ポスターが掲げられている壁と。
明らかに成人男性サイズの――ドピンクのドレスっぽいものがぎっしり詰まったクローゼットと。
コスプレの極意!オトコも美少女に大変身!とでかでか書かれた本がみっちり詰まった本棚のはしっこが、それはもうはっきりと映りこんでしまっているわけで。
――しゃ、社長……コスプレイヤーだったんっすか。えっと、今年で七十歳になるとか言ってませんでしたっけ?体重は百キロ超えたけどとか笑って言ってませんでしたっけ?エ?
『ん?ああ、そうなのか?いはやは、操作がよくわからなくてなあ。テレビ通話を切るボタンってこれだろうか?』
次の瞬間。社長の胸毛もじゃもじゃの胸元が大写しになったテレビ通話画面が、フルスクリーンで表示される結果になり。俺はついに堪えきれず、椅子から崩れ落ちる羽目になったのだった。
――社長、それ……ほんとはわざとやってるってオチじゃありませんよね??
その日の会議が、踊り狂うばかりでろくに会議にならなかったのは、言うまでもない話である。
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