オンライン・メゾン

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――報告書2-1 調査員:ユウト(18歳)   メゾン430番201号室――  ユウト、十八歳。浪人生。  俺は、大学受験に失敗した。模試はいつもAかB判定で、先生も親も心配ひとつせず、俺自身も絶対に受かると思っていた。しかし、前日に三十九度の熱を出し、当日も解熱剤を飲んで試験に臨んだが、いつもの実力は発揮できなかった。HPで合格発表の番号一覧を見た時には、人生で一番絶望した。まだ受けられる大学はあったが、すべての気力を失い、一か月ほど引き籠った。  友達が楽しそうに大学の準備をしているのをSNSで見て、このままではいけないと予備校に入り、寮生活が始まった。だけど、周りは凄く真面目な奴ばかりで、いつの間にかその熱量についていけなくなった。予備校を辞め、家に戻ってまた引き籠った。ニートにはなりたくなかったからバイトを探して、その時に『オンライン・メゾン』のモニター募集の広告を見た。惨めな現状から逃げたくて応募したら、採用され、これまでとは考えられない贅沢な暮らしをしている。  『オンライン・メゾン』では、Bクラスの一軒家で、三人でルームシェアをしている。寮生活に疲れたはずなのに、一人で生活する想像ができなかった。二人とも年下で、十五歳の女の子と、十七歳の男の子。自然と自分が家長のようになり、慕ってくれるようになった。  あれが欲しい、と思えば湧き水のように無限に手に入るし、受験などという競争もこの世界にはない。自分の好きなことを好きなだけしていいとなると、案外思いつかずにずるずると時が過ぎる感覚。この世界の時間は現実と同じなのか知らないが、体感ではもう三か月くらい経っているのではないだろうか。  十五歳の女の子は、学校でいじめにあって、顔には大きな痣がある。鏡がなく、自分でその状態を見ていないからか、全く気にしていない。この世界で少しでも気楽に居られたらいいと思う。  十七歳の男の子は、お母さんが不倫をしていたのがバレて、家庭崩壊に耐えられなかったという。自分の親がそういう不貞を働いていると想像するだけで、吐き気がする。この世界では、愛情はあれど結婚という制度はない。一緒に居たければいる。今のところ、出会った人は皆いい人だ。    ひとつ不気味だと思っていることがある。寝るという概念はこの世界にはないようだ。何でも欲しいものが手に入るが、ベッドや布団は存在しない。現実世界で眠っているのだから、この世界で眠るのもおかしな話だが。今のところ疲れたり眠気が来るという感覚はないが、もし眠ったらどうなるのだろうか。どこにも戻れず、彷徨うかもしれないと思うと、噂になっている「死ぬ」ということにつながりそうだ。  ひとまず、最初の報告は以上とする。
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