オンライン・メゾン

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   人々の間では、意識をオンライン上に移し、一定期間生活することができる『オンライン・メゾン』のサービスが広まっています。ユーザーは好きなメゾンを選択し、空きがあれば住むことができます。都会の高層マンションや、自然豊かな町の一軒家、南国のリゾートホテルなど、住んでみたい場所を自由に選べるのです。もちろんランクによって料金は変わりますが、現実では叶わない理想の暮らしを体験出来るという触れ込みで、幅広い年代に浸透しています。  『オンライン・メゾン』で暮らしている間、もちろん飲まず食わずでは肉体は滅びてしまいます。専門機関に入り、栄養を常に体に取り入れる装置をつけてベッド一つ分のカプセルに入ります。意識をオンライン上へ導くため、特別な薬を飲んでいただきますが、痛くも痒くもないため、評判は上々です。  ですが、『オンライン・メゾン』の利用者が増えるにつれ、こんな噂が囁かれるようになりました。  ――『オンライン・メゾン』でと、二度と戻れない――  ただ理想の暮らしをするだけなのに、死ぬなんてことがあるのでしょうか。もちろん噂ですし、現実世界に戻ってきているのはそのオンラインで死んでいないはずの人ばかりですから、立証しようがありません。  噂ばかり一人歩きしては、サービスの不信感にも繋がってしまう。そこで開発元は報酬型のモニター募集と称し、三名の調査員を採用しました。いずれも、現実世界の生活に不満や絶望を抱いている人たちです。死について調査するのですから、物騒なこともあるかもしれません。面接時、噂のように二度と現実世界に戻れなくても何の未練もないのだと、自信を持って発言した三名です。    報酬型ですから、『オンライン・メゾン』の利用料、もしくは現実世界に戻って来た際の一年分の生活費のどちらかを選んでいただきました。すると三名とも利用料を選択し、住処も財産も捨ててやって来たのです。三名はそれぞれ理想のメゾンを選び、ベッドに横たわってオンラインの世界へと向かいました。  そして一年が経ち、彼らからの報告書が届きましたので、噂の真相を、皆さんの目で確かめていただきましょう。       
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