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意識の覚醒を感じる。
なんだ、死んでなかったのか。まだまだ元気だな。
そう思ったはいいものの、目が開かない。というか身体の感覚がない。
ついに感覚機能まで失われてしまったのかとため息を吐こうとしたが息が吐けない。
……いや待て。息が吐けない? 感覚がないだけで呼吸はしてるとかではなさそうだ。もう完全に身体が止まっているとしか考えられない。
じゃなぜ俺は死んでいない? なぜ意識がある?
まさかこれ幽体離脱とかそういうあれか? でもそれならもうすこし自由に動けてもいいんじゃないか? 浮遊感もないし。
とにかく欲しいのは情報だ。視覚でも触覚でも聴覚でもいい。何か一つ情報入手手段を得なければ。
このままこんな無の中にいたら気が狂ってしまう。
そこからどれほどの時が経ったのか、わからない。
何が理由かは、わからない。
突如として、体の中を刺激が走る。
体の奥。感覚的には背中の内側から走った刺激は、首をつたって頭に届く。背骨を走るように腹の奥のさらに奥の方に刺激を届けた。
脳裏に映像が映し出されるような感覚、映りの悪いテレビのようにノイズ混じりの視界がぼんやりと開かれていく。
ここは……なんだ?
抱いたイメージは一言で表せば『無骨』。
余計なものがないというより何もない。あるのは自分の身体とその周りに張り巡らされた鉄の棒(?)のみ。
自分の身体を見てみると、金属質な板で覆われている。首から下が見えない。というか首が動かない。
そして気づいた。温度が感じられない。空気が冷たいとか暖かいとかがわからない。自分の体温すらも感じ取れないのだ。
身体を覆う鉄板にかかる圧力のかかり方から、俺は今壁に寄りかかるような座り方をしているんだろう、と考えた。
とにかく、今俺は周りが見えている。しかし身体は動かせないし感覚もない。
そしてここはあの白い病院ではなく、灰色の謎の部屋である。
やがて遠くから何かが聞こえてくる。否、遠くから聞こえてるのではなく、聞こえなくなっていた音が聞こえ始めてきたのだ。
その音は足音だった。つまり近くに人がいる!
俺は期待した。そいつなら今の俺の状態を教えてもらえるんじゃないかと。そのために足音の主を探した。
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