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いた。いたが……
小さいな。
背が低いとかそういう意味ではない。文字通りに小さいのだ。サイズ感としては、手のひらサイズだろうか?
いやいや意外と遠くにいて遠近法で小さく見えてるだけだ。
そう思おうとしたが、どう考えても俺の目の前にある鉄の棒と思っていたそれの上に立ってそこで何かを操作している。
声をかけようとしても、声が出ない。喉が認識できない。口が開かないというか無い。
今の俺は、目と耳と肌?の圧覚しか感覚がない。それ以外の機能は全てない。
それを認めなければならない。
そして目の前の小人はおそらく女性だ。赤混じりのブロンドヘアを後ろで無造作に束ねており、顔立ちからして未だ少女から抜け出していない程度の年齢と思われる。
細身であるというよりは、あまり食べていないため肉がついていないのだろうと思われた。
そしてそんな細い体をぴっちりと奇妙なスーツで覆われていた。
小人と思うほど小さく見えてるくせによく見えるな、と言われそうだ。
説明すると、その少女に意識を向けて見たら、視界を拡大できたのだ。
それに今更気づいたが、俺の視界は現在360度全方位を見ている。真下と背中以外は上まで含めて見えているのだから、まるで神の視点に立ったかのようだ。
さて、そんなことより、少女の方に動きがあった。
鉄の棒、いや、彼女にとっては橋なのだろう、を渡って俺の背後に来る。流石にそこまでいかれると見えなくなってしまうのでそこで何をしていたのかはわからない。
しかし声は聞こえた。
「今度こそ、動かして見せる」
何を?そう思った直後、背中に刺激が走った。
空気の抜けるような激しい音を出し、ガコンという音を立てた俺の背中が開いた感覚がした。
何を言っているとは思うのだが、文字通りである。
背中が開いたのだ、パカーンと。
って、ちょおおおい! 落ち着いてる場合か!?
普通人は背中がパカーンなんて開かねえよ!?
え、ちょっと待て? なんかカツカツ音してね? なんか何かが背中から入ってきてね? これあれだよね!? さっきの子が入ってきてるよね!?
足音と彼女の踏む鉄板の感覚から背中から入って心臓のあたりに向かって歩いてるのだとわかる。気持ちが悪い。
そして心臓と思われる位置につながる扉も開いてしまった。
やだ、私のハート丸裸。
心臓部(正確には胸部中央)に入った彼女の様子を見たかったが流石に体内に目はない。
と思っていたら、再び刺激が当の心臓部から腹の上の方にかけて走ると、腰のあたりからだんだん熱が広がっていくような感覚が来た。
「うん、制御端末の起動、ここまでは整備マニュアル通りね。でも問題はここから。」
そんな声が頭の中に響く。正確には胸の中でしゃべった少女の声が体内から聞こえてきた。
体内の声が聞こえた? なら体内の様子は見えないか?
そんな風に考えてたら視界の真下の方、今まで視界がなかったところに様子の違う景色が映し出された。
それはとても小さな部屋。
中心に一人分の椅子があり、その前にはごちゃごちゃとしたキーボードやレバー、ボタンの数々。周りの壁に映っているのは俺の視界そのものか?
……これ、もしかして、いやもしかしなくても、戦闘機とかロケットとか、なんかそういうのの操縦席、否、コックピットってやつじゃないか?
やがて俺の思考は一つの結論に辿り着こうとしている。自分でもあり得ないとは思っている。しかし現状のこれを見るにこう考えるしかない。
鋼鉄の身体。360度ひらけた視界。手のひらサイズの人間、それが入るための背中の扉に体内のコックピット。
そう、これは例えるならば、巨大な機械。しかし、自分の体の形、姿勢が人間型であることを物語る。
ならば答えはこうだろう。
生まれながらに病弱で、体を動かすこともままならず死んだはずの俺は……
大型の人型ロボットになってしまっていたのだった。
…
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