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契約
あれから数分。
少女はずっとコックピットの中で何か書類(先のセリフからマニュアルだろう)と睨めっこしながらコンソールを叩いていた。
が、特に進展がないように見える。壁の画面に次々と映し出されるウィンドウを見る限り、今彼女がいじっているのは腕や足の関節を動かすモーターの駆動率とエネルギー循環率だ。
俺が動かないのはモーターにうまくエネルギーが回っていないためだと考えているわけだ。
しかし、俺の身体の事だ。俺はなんとなく感覚でエネルギーは充分行き渡っていると感じ取れている。
だとしたら足りないのは何かというと、刺激が背中に走り背中から全身に刺激が廻る感覚からして、背中に体の制御装置があるんだろうが、その背中の装置から出る刺激信号が途中で止まっている。
いや、この感じは……拒絶している。俺の感覚に照らし合わせるとこれは『不信感』に近い。
つまり、起動コードが不正アクセスとして弾かれているのだ。
「くそ、なんで動かないのよ!? 動きなさいよこのポンコツ!」
『誰がポンコツだこんにゃろう』
「…………は?」
……おや?
もしかして……声、出ちゃいました?でもどうやって……あ、コックピットの中にはスピーカーがあるんだ。そこから声が出たってわけか。
それなら、せっかくなので言わせてもらおう。
『おーい、聞こえてるかー? やっと意思疎通が取れそうな状況になれたよ。話を聞いてくれ』
「だ、誰!? どこから……いや、どうやってこのLOTに外部からアクセスできているの!?」
『……は?』
今度は俺があっけに取られる番だ。
しかし彼女の立場に立って考えてみれば彼女の言は納得できる。まさか乗り込んだ機械が今までうんともすんとも言わなかったくせに急に喋り出したら機械の声だとは思うまい。
『あー、驚かせてしまったようで悪いけど、これは外部からのアクセスとかじゃなくてな、俺の声だ。』
「俺の声……? 何訳のわからないことを……」
『今君が乗ってるこの機体が俺の身体。今君が聞いてるこの声が俺の声。Do you understand?』
「…………」
ついに絶句させてしまった。
しかし錯乱とか起こして出ていかれる前にこれは畳み掛けておいた方が良さそうだ。
『えーっと……君が読んでるそのマニュアル、整備用のやつだな?
多分、それでどうこうできるのは俺の背中にある制御装置まで。そこから先は正式な管理者権限がないとアクセスできないってこと。
だから、君のやり方では俺をメンテナンスこそできても操作はできないんだろうな。』
俺も特別パソコンに強い訳じゃないが、機械ってのは誰でも使えるようになっていては不都合な部分を持っていることがある。
だから、基幹部の設定など、重要な部分は正式な管理者権限でないと開かないロックをかけていることが多い。それは用途によって段階的になっていることもしばしばある。
彼女の整備用マニュアルは、おそらくこの身体を制御するための装置を点検することはできるが、この身体を操作する権限はない。
操作をするためには、正式なパイロットとしての権限を持っている必要があるということだ。
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