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『さて、肉体の情報登録は終わったぞ。そうしたら、今度は魂の証の交換だ』
「確か……真名、名前の交換よね?」
『そうだな。君の名は?』
「ハルモニア」
調和…なるほど、いい名前だな。
さて、そしたら今度は俺の名前…あれ?
『…………』
「何してるのよ? 私の名前だけじゃダメでしょ? あなたの名前を教えなさいよ」
『あ、いやその……』
「どうしたのよ? 教えるのが恥ずかしい名前なの?」
『いやそういう訳じゃなくて……』
「何よ、歯切れ悪いわね」
『…………わかりません』
「……は?」
『俺の名前……なんだっけ?』
そう、名前がわからないのだ。
いや待て、少なくとも俺には昔親からもらった名前があったはずだ。俺の16年ほどの病弱な人生は確かにあったはずだし、この記憶では両親に何度も名前を呼んでもらっていた……はずだ。
しかし思い出せない。自分の名前だけがぽっかりと穴が空いたように思い出せないのだ。
「ふ…ふざけないでよ!? 自分の名前も知らないの!?」
『ふざけてない! 本当に思い出せないんだ!』
「このままじゃ登録できないじゃない! もー最悪!」
あまりに酷い話に怒り出してしまった。
……どうにかできないか?
『そうだ、マニュアルにはなんか書いてないか!?』
「ないわよ。そもそもこれはあなたの言ったように制御装置のマニュアルであってあなた自身のマニュアルじゃ無いのよ。」
『えーっとそれじゃー……俺の身体!どこかに書いてないか!?』
「あなたの身体って外側のこと?整備してた時には特に何かあった感じはなかったけど……」
『頼む! もう一度よく調べてみてくれ!』
「はぁ……わかったわ。ちょっと待ってなさい」
呆れた顔で出ていく彼女が「やっぱりポンコツじゃない」と呟いたのが聞こえたが反論のしようもなかった。
…
「脚、腕、背中、腰、腹、胸……ないわね」
ハルモニアはこの機械の意思と思われる男の声に言われたように、名前が機体のどこかに書かれてないか探していた。
彼女が最初にここに来たのは偶然だった。
食糧を求めて入った建物は何かの軍事施設で、その奥にまるで深い眠りについたように壁に寄りかかるように鎮座する人型機動兵器を見つけたのだ。
彼女がこれを修理して利用しようと考えたのにはいくつか理由があった。
一つは食糧。ここにはまだ手付かずのレーションが豊富に残っていた。
カバンに入りきらないそれら全てを運ぶことはできないが、あの機械を動かせれば運べるだろうと考えた。
もう一つに安全の確保。
彼女が護身用に持ち歩いているマシンガンは信頼できる相棒だが、これがあっても夜寝てる時に襲われれば身の保証がされるわけではない。
そこで、この巨大な兵器を動かせれば、それだけで周りのものへの牽制となるし、いざとなれば闘争も籠城もすぐにできる。
そして最後に、好奇心。なんとなく惹かれたのだ。
幸い、文字を読むだけの教養はあり、マニュアルの内容を理解できるだけの素養があった。
そして何より、この兵器はLOT、滅びた超文明の技術で出来ている。
これが欲しい、動かしたい、動いているところを見てみたい。
そんな思いで彼女は施設内にある様々なパーツをかき集め、この機体の修理に乗り出したのだ。
そうしてその最終段階で躓いた。
起動しないという問題にぶち当たってしまったのだ。
何度も調整し、何度も挑戦した。
そうして何度かの失敗を繰り返した後に、もう諦めようと考えていた矢先に、天から声が聞こえてきたのだった。
だからこれは最後にやっと掴んだチャンスでもあり、彼女としても手放したくないものだったのだった。
「あとは頭だけど……うん? この頭の模様……少し透けてる?
うーん……なんか向こう側に書いてある。
M……a……r……s……Mars?」
…
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