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「この足跡。真実ちゃんよね?」
ピアノ教室の玄関で、真実は固まった。
子ども用の水色のスニーカーの甲部分に、はっきりと靴の跡が付いている。その跡は、スニーカーの表面に収まるようにスタンプされている。
「どうして、こんなことするの?」
土間に視線を落として、じっと廊下の端で動かずにいる。床張りの廊下はつめたく、フリルのついたピンクの靴下の生地など物ともせず、真実の足の裏を冷やしていく。
俯く真実のつむじを見下ろしながら、ピアノ講師の鈴木はじっと動かない。むら無く塗ったファンデーションに浮かぶ赤い口紅は、への字を描いている。
行き場のない真実の右手が、キルティングのワンピースの裾をいじり始める。もぞもぞと触るせいで、スカートの裾上げ糸がほつれていく。真実の母親がわざわざ、うさぎ柄の生地を探してミシンで手作りしたワンピースだ。
だらしなく垂れ下がる糸と折り目のとれた布地を見たら、きっとお母さんに怒られるだろうと、真実は頭が重くなった。
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