踏んじゃった

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 由美は真実と同じ10歳で、それぞれ違う学区の小学校だが、鈴木のピアノ教室仲間として知り合った。  レッスンは45分間、毎週土曜日の15時から由美の番、その後の16時からが真実の番だ。間の15分間は休憩で、残って自主練習してもいいし、リビングに用意された紅茶とお菓子を食べて帰ってもいい。いつも真実は自分の開始時間より早く到着して、レッスン直後の由美と一緒にお菓子をつまんで話した。そのうちに、2人は仲良くなった。  今日の真実は、15時57分にピアノ教室に到着した。お茶をご馳走になることなく、3分後にリビングドアを開けた。  入れ替わりに由美が、鈴木講師に玄関まで見送られるところだった。  空席になったピアノ椅子に座って、背中を丸めて真実がじっと待っていると、ドアが勢いよく開く音で振り返った。 「真美ちゃん、こっちに来て。由美ちゃんの靴、見なさい」  鈴木講師に引っ張られるように、玄関へとUターンさせられた。  土間の中央に、子ども用の水色のスニーカーがちょこんと並ぶ。擦り切れた水色は薄汚れているが、それより、もっと目を引くものが視界に飛び込む。  (こう)部分に、小さな靴跡が付いている。そして、その靴跡はスニーカーの表面に収まるように、はっきりとスタンプされている。  つまり、大人ではなく、子ども用の靴で踏みつけられた跡だ。  スニーカーの上から押し付けるように、四角い踵とカーブを描いたつま先の形が、くっきりと残っている。土埃(つちぼこり)に塗れた足跡は、ぎゅうぎゅうとスニーカーを踏み潰して出来たものだと分かる。 「かわいそうなスニーカー。踏まれて、足跡が付いちゃってる」
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