踏んじゃった

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 背後から、真実の両肩に手を置いて、鈴木講師は傷ものになったスニーカーを憐れむように呟く。  手前のスニーカーから目を離すと、鈴木は次に、靴箱の下に隠れるように置かれたエナメルの靴を拾い上げた。  ラベンダー色の靴が真実の顔の高さに掲げられると、表面がつやつやしているのがよく見える。  先はまるくカッティングされ、本体と同じ生地で作った小花がアーチ状にあしらわれている。3センチ程のヒールのパンプスは、10歳の少女の普段着用にしてはかなり洒落たものだ。 「この靴、真実ちゃんのよね?」  真実の母親が気に入って、お正月に買ったブランドのものだ。ビジュー付きの小花のパンプスは、鈴木のピアノ教室に飾られた調度品によく似合っている。キラキラと眩しく、けれど控えめで上品だ。  こっくりと真実は頷く。自分の靴だと認めると、大きく溜め息をついた鈴木が手首を180度ひっくり返すと、今度はパンプスの底を真実に突きつけた。 「由美ちゃんの靴を踏んづけた跡と、真実ちゃんの靴のかかと。形がまったく一緒でしょ?」  確信めいた口調は、段々と強みを増していく。『やや弱く』、メゾピアノ<mp>から『やや強く』メゾフォルテ<mf>へのクレッシェンドだ、と真実は捉える。
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