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何故、こんな嫌がらせをしたのか。鈴木の詰問は、音を鳴らさぬ休符の小節が続くように、真実の口を閉ざす。
温かそうなファーに足を包まれた由美も、同じように黙っている。
「先生はね、何よりも、今、黙っている真実ちゃんに怒っているの。どうして、何も言わないの」
質問の先が変わる。由美のスニーカーを踏んだ跡が、真実の靴によるものだと事実確認すると、鈴木はゆっくり発声する。嫌がらせをした真実をじっくりと諭すように、前の一音と、次の一音をつなげる<スラー>のように滑らかだ。
歌うような鈴木の嗜める声に、真実は目を伏せながら、フローリングの縦線の先をなぞる。その先に、もこもこしたスリッパをご機嫌そうに眺める由美がいる。
『由美ちゃん、どうして』
どうして、と言おうとする真実の喉は、きゅっと塞がれて、音が出ない。
『……先生に、告げ口》したの?』
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