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「ピアノ習うお金があるなら、新しい洋服や靴、買ってくれればいいのに。ママ、ケチなんだもん」
真実の家への道と、由美の家への道が分かれるT字路、その突き当たりに空き地に足を踏み入れる由美に、ゆっくりと真実がついていく。小さな戸建てがぎりぎり入る程度の狭さでも、2人にとっては十分な広さだ。
作戦会議を立てる場所として、広すぎるくらいには。
「……由美ちゃん」
デニム生地のキュロットパンツから伸びた細い足を、由美はピアノのペダルを踏むように、パタパタと打つ。名前の知らない短い草が生える地面は、ところどころ土が覗く。
由美がつま先を蹴り上げる度、まき上げられた土砂が、容赦なくスニーカーにかかってしまう。
けれど、由美はどんどん自分の靴が汚れていく様を楽しんでいる。
「ねぇ、由美ちゃん。――どうして?」
「ん?」
歌うように自由な由美に、真実はお腹から必死に声を出して呼びかけると、やっと反応した。
「どうして、今日のこと。鈴木先生にばらしたの?」
「だって」
一度止まった由美は、もう一度くるくると動き出す。リズムは、8分音符の連続。その軽やかさは、作戦の成功に打ち震えている。
「真実ちゃんが怒られれば、由美が自分で靴を汚したんじゃないって、ママが納得するじゃん」
「え」
「多分、今日の夜、真美ちゃんのママに電話するんじゃない?」
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