大きな足あと、と、僕

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 これは田舎のおばあちゃんちに来て、コンクリートじゃなくて、草が生えている道を一人で歩いている時のこと。 「何だか大きな足あとがある!」  お父さんの靴のサイズの3倍くらいある足あとが、森へ向かって続いているのを僕は発見した。 「今日はこれを追いかけてみよう!」  そう思って、その足あとの先へ先へ走っていくと、だんだん音が聞こえてくるようになってきた。 「近い! これは近くになっている!」  ドンドンという音が大きくなっていく。  しかし音が大きく聞こえてくるようになってくると、足あとのほうがおかしくなってきた。 「あれ? 足あとが小さくなっている……」  最初はお父さんの靴のサイズの3倍はあった足あとが、今は僕の靴のサイズくらいになっていたのだ。 「あれれ? 遠くなっているのかな? 間違っているのかな?」  でもドンドンという音は、すごく大きくなっていた。  しかし足あとのほうは小さくなっているし、それに。 「何だかちょっとかすれてきている……」  足あとが今にも消えそうになっている。  音は間違いなく近付いているはずなのに、足あとは今にも無くなりそうだ。 「なぜなんだろう?」  そう思った僕は自然と走る速度が上がった。  一体何が起きているのだろうか、それが気になって気になって仕方なかった。 「あっ! 背中!」  その足あとの正体と思われる背中をついに見つけた。  背中はトカゲのような感じで、でもしっぽは短く浮いていて、体の大きさは僕より少し小さいくらい。  どうやら二足歩行の怪獣さんらしい。  その怪獣さんから『ドンドン!』という大きな音が出ている。  どうやら足音ではないらしい。  じゃあ何の音? 「怪獣さん、どうかしたんですか?」  僕が後ろから話し掛けると、怪獣さんはドキッと体を震わせ、立ち止まり、おそるおそる僕のほうを向いた。 「ボクの、ことかい?」  優しそうな声なんだけども、どこか声が震えていて、目は心配そうにキョロキョロしている。  僕はそんな怪獣さんの不安そうな感じを振り払うように大きな声で、 「そうです! 何だか大きな音が鳴っていますが、大丈夫ですか!」  と言うと、怪獣さんはゆっくりとこう言い始めた。 「ボクの、心臓の音が、外にも、聞こえて、いたんだ。いやいや、驚かせて、ゴメンね」 「心臓の音って、何か緊張をしているんですか?」  僕が小首を傾げながら、そう聞くと、 「まさしく、そうなんだ、今日は、森のピアノの、発表会で、緊張して、いるんだ」 「足あとも消えかかっていますが、大丈夫ですか?」 「えっ? 足あともっ?」  そう言って驚き、自分の体を見る怪獣さん。  そして。 「そっかぁ、気が小さく、なりすぎて、体も小さく、なっているなぁ」 「最初は足あともすごく大きかったですよ!」 「最初は、自信満々で、歩いていた、からね。でも、どんどん、不安に、なっていって」 「でも最初に自信満々に歩けていたということは、練習は完璧だということじゃないですか!」  僕がそう力強く言うと、怪獣さんは恥ずかしそうに後ろ頭を掻きながら、 「う~ん、確かに、そうだとは、思うんだけども。だんだん、やっぱり、不安に、なっちゃって」 「大丈夫です! 緊張することは普通です! 普通に自信を持っていて、普通に緊張し出したのだから普通です! 何もおかしいことは無いので、きっといつも通り普通に出来るはずです!」 「確かに、そうかもしれないね。ありがとう、元気が、出てきたよ」  そう言うと、怪獣さんは歩く度にどんどん体が大きくなっていって、足あとも大きくなり、クッキリとした足あとがまた出てくるようになった。  そして大きな『ドンドン!』という音も無くなった。  僕は足あとが最初の感じに戻ったことを見て、 「じゃあ怪獣さん! 僕、暗くなる前に帰るね!」  と挨拶した。怪獣さんは、 「ありがとう、足あとを、たどれば、きっと、元いた場所へ、戻れるよ」  と言って二人でバイバイして別れた。  怪獣さんのピアノの発表会は果たしてうまくいったのかな、いや、うまくいったに違いない。  だって最後の挨拶をした時、あんなに笑顔だったんだから。 (了)
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