null(ヌル)

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 少年の心は好奇心に負けた。そしてほんの出来心で足跡をたどってみることに決めた。迷信なんて信じてはいなかったが、母の忠告は守りたかった。  それでも真実を言わずに死んでいった母さんが悪いんだ、と思った。子供だましの迷信ではなく、ちゃんとした理由を話してほしかった。母が死んだ今、それは自分自身で見つけるしかない。  小麦畑に足を踏み入れた瞬間、少年の心は前しか向かなくなった。いつも目にしている畑だし、何度も入ったことがあるけれど、足跡の上を歩いていると先に進みたくなる。  少年は自分の背丈より少し低い小麦に囲まれた道を無我夢中で進んだ。この先に足跡をつけた主がいるはずだ。もしかしたら村の大人たちもそいつを知らないのかもしれない。だったら僕がそいつを捕まえて、正体を暴いてやる。  風が渦を巻いて小麦を揺らしていく。黄金の海はやがて大海にかわり、見渡す限り小麦に囲まれた。それでも少年は振り返らなかった。振り返れば、負けな気がした。  地平線の彼方に二つに割れた小麦畑がある。そこを目指して進むと、また二つに割れた小麦畑が見えた。もうどれくらい歩いたのか。街と村を何往復もしたような気がする。少年は畑の向こう側までいったことはなかったが、こんなに広いのだろうかと疑問に思った。家も道も、川すらない。  それでも少年は振り返らなかった。きっと振り返っても同じ景色が広がっている。永遠の景色の中に取り残された心地になるのは怖い。  どうしてだろうか。日も落ちない。ずっとずっと空は夕焼けで、畑は黄金のままだ。それでも少年は進み続けた。
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