6人が本棚に入れています
本棚に追加
小麦畑をまっすぐ貫く踏みならした足跡を見つけたら、その先をたどってはいけない。
大きな街に絹織物を売りに行った帰り、こうした足跡を見つけては母がよく言っていた。
「どうして?」
幼い少年には不思議だった。だって迷路みたいで面白そうだったからだ。
「小麦畑の足跡はね、ずっと遠いところに繋がっているのよ。そこはとても恐ろしくて怖いわ。それに二度とこちらの世界には戻ってこられないの」
「ふーん、そーなんだ」
こましゃくれていた少年はそれを母の作り話だと思った。その様子に母も気づいたようだ。
「信じてないわね?」
「うん。だって確かに小麦畑は広いけど、戻ってこれるもん」
「そう見えるでしょ。でもあれはあなたたち子供を誘おうとわざと開けたように見せているのよ。昔から小麦畑は違う世界と繋がっているって言うでしょ?」
「そんなの迷信だよ」
少年は思った。ミステリーサークルがよくこの街でも見つかるけど、あれだって誰かが作っているに決まっている。
「もう、そんなこと言う子にはご飯抜きですからね!」
母は怒って先に進んだ。生意気だった彼は謝りもしなかったが、それを今となっては後悔している。その年の暮れ、母は急病にかかって死んだ。
最初のコメントを投稿しよう!