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第3話 飼い主さんが帰ってこないにゃ…③
『朋美だ! 朋美の声だ! ほらやっぱり朋美は俺を迎えに来てくれたんだ!』
俺は嬉しくなって古い一軒家の廊下を、全速力で玄関まで走り抜けた。
玄関についた俺は柱の陰から、辺りをキョロキョロ見回す。だが朋美のお母さんと見知らぬ女性がいるだけで、なぜか朋美の姿はない。
『確かに朋美の声がしたのに!? 俺は朋美の声を間違ったりしない!』
フンフンと玄関の臭いを嗅ぐが、やはり朋美の臭いだけがしなかった…。
「よく来てくれたね佳菜江ちゃん」
家の奥から朋美のお父さんが玄関のほうへやってきた。そして見知らぬ女性に親しげに声をかける。
「叔父さん、ご無沙汰しています」
見知らぬ女性が話すのを聞いて、俺は驚いてフリーズした。余りにも驚きすぎて、思わず声が漏れてしまうほどに。
「にゃっ…?」
◇◇◇
「叔母さん、、もしかしてこの子が朋美ちゃんの猫!?」
「ええ、アスランって名前なのよ」
声を出した俺に気づいた見知らぬ女性が、俺のほうを指差した。年齢は朋美よりも若いだろうか、朋美とはまったく別の顔なのに、声はどこまでも朋美にそっくりだった!?。
何が起こっているのか訳がわからなくて、朋美の両親と女性を交互に見る俺。
「可愛いね~! 叔母さん、猫ちゃん撫でても大丈夫かな?」
「ええ、気をつけてね人懐こい猫じゃないから…」
俺に近づいてくる見知らぬ女性。
「ふふ、フワフワだね、びっくりした顔も可愛いねアスラン」
俺を恐る恐るゆっくりと抱き上げ、腕に抱っこする女性。
「見てお父さん! アスランが大人しく抱っこされてるわよ!」
「俺なんて愛でるだけで、撫でさせてももらえないのに…」
朋美のお母さんが俺を見て驚き、朋美のお父さんがポロリと不満を口にした。
「ほんと、不思議なほど声がそっくりよね佳菜江ちゃんは…」
不意に朋美のお母さんが女性を見て、声を詰まらせる。
「ほんと、子供の頃は、朋美と二人して隠れて『どっちか本物だ!』ってよく悪戯しとったよな」
そう言うと瞳を潤ませる朋美のお父さん。
俺は朋美とそっくりな声をもっと聞いていたくて、瞳を閉じて、されるがままにしばらく撫でられていた。
「初めまして、私は朋美ちゃんの従姉の佳菜江、今日からよろしくねアスラン」
そう言って、佳菜江と名乗った女性は俺の顎を撫でた。声は同じだが、撫でる手つきがぎこちなかった。
「アスラン…?」
この声をずっと聞きたかった…名前を読んで欲しかった…。なのに聞けば聞くほど心が痛くて…涙が溢れてきた…。
心より先に体が理解したのか、涙が次から次へとぼろぼろと零れる。認めたくなかったが…理解した。もう大好きな飼い主は…朋美は帰ってこないだろうということを…。
「泣かないでアスラン…」
項垂れて涙を零す俺を、心配そうに名前を呼ぶ優しい声。その声を聞きながら、俺は朋美がいなくなって…初めて泣いた…。
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