平行線

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 雨上がり。  優しい春の朝日が、マロニエの木々の間から漏れ差し、綺麗にタイル舗装された並木道に反射している。まだ乾き切っていない路面に、二本の細いタイヤの跡。平行線の先に、車椅子がゆっくり進んでいる。  車椅子には若い女。晴れていれば毎朝、マロニエ並木の美しいこの公園をのんびり散策するのだ。  公園の真ん中には、(つる)バラのアーチがあって、数日前までたくさんの蕾が膨らんでいた。今日あたり、そろそろ花が開いているはずだ。  やっぱり!  アーチには、ピンクの花がいくつも咲いていた。女は微笑むと、車椅子の向きを変え、アーチをくぐった。開いたばかりの柔らかな花びらに、雨つぶのクリスタルが散りばめられていた。  女はもっと近くで見ようと車椅子を進めた。でも、それがいけなかった。車椅子の前輪が、路肩から脱輪してしまった。前輪は花壇の溝にはまり込んでいた。こうなったら、もう自分ひとりで抜くことはできない。  ああ、やっちゃった・・・。  助けを呼ぼうにも、朝早い公園にはまだ誰もいなかった。片方の前輪が溝に落ち込んだ不安定な姿勢で、女はじっとしているしかなかった。
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