平行線

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 15分も経った頃、男がひとり並木道をやってくるのが見えた。背が高いその男は、まるで映画スターのようにサングラスをかけていた。女は助けを求めて声を出しかけて、気がついた。男の手には白い杖があったのだ。女は躊躇(ためら)ったが、公園には他に誰ひとりいない。これ以上この不安定な姿勢でいるのは辛かった。  すみません(パルドン、ムッシュー)・・・  女が声をかけると、男は立ち止まった。キョロキョロとあたりを見回すことはなく、少しうつむいてじっと耳を澄ましているようだった。女はもう一度声をかけた。  すみません(エクスキュゼモワ)!  ぼく?  ええ、あなたに。  どうしました?  女は事情を説明した。女の声に導かれて、男はバラのアーチの下にやってきた。男が手を伸ばし、女はその大きな手を取った。男は車椅子の肘のせを握ると、軽々と前輪を持ち上げた。女は礼を言った。  バラを見ていたのですね、と男は言った。だが、男には見えないはずだ。  どうしてバラだと?  だって、こんなに花の香りがしますから、男は笑って答えた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加