#2 電車

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#2 電車

窓の外を眺めていた。 薄く反射した自分の向こうに、知らない町が流れていく。 恐らく訪れたことのない土地であろうそれらは、しかし目新しくはなかった。 どこも大概、似たような景色だ。 四角が並んだ人間の巣。コンビニ、大型ショッピングモール。 駅周辺が開けているか、ごちゃごちゃしてるかの違いしかない。 変わらないのは東京都内だからか、それとも世界なんてこんなものなのか。 二元論でしかない世界。 どんなに虚しく、無機質だろうか。 そういう風には、なりたくないと思っていた。 虹が七色なのは、人間がその程度しか色の違いを認識出来ないからであって、本当はもっと微細に、無数の色によってグラデーションしているらしい。 分かっている。 世界はもっと複雑で多彩なのだ。 "理解していても認識しきれないのだから仕方がない"と、いつからか自分に言い聞かせていた。 その形容を正確に認識するには、この世界は私には眩し過ぎる。 自ら目を瞑り、鼻を摘み、飛び込んでくるものを淡白に味わっているのだ。 仙人は霞を食べて生きたと言う。 しかしそれは、霞を食べることで人間を超越したのではない。 あくまで仙人は、超越しているから仙人なのであって、超越しているから霞を食らうのだ。 ただただ五感を鈍らせるだけの私は、外界を遮断しようとする猿に近い。 知りたい。 遺したい。 生きたい。 私は欲求が弱いから、人間になりきれないのだろうか。 人間は、罪とされるほど欲が深いらしい。 獣の方が欲求は強そうなものだが、もしかしたら彼等は純粋なのかも知れない。 人間は、不純だから。 だから、強いとかではなく、深いのだ。 重く、黒い水が胸の内に流れ込むのに同調して、車内を陰が満たした。 聞き慣れた、トンネルに響く喧しい走行音で、もうすぐ到着するのが分かった。 窓に映る姿が、目が合うほどはっきりと見える。 いつからだろう。 直後、その向こうを人混みが流れていった。 見慣れた、見飽きた、無機質な世界。 ヌメっとした光沢を帯びた銀色の扉が開いた時、私はまたひとつ色を失った気がした。 小さく溜息を吐き、一歩踏み出す。
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