付け直し

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 次の日出社すると、部長から一面記事の特集が割り振られた。なぜ突然自分がそのような大役を任されたのか。  驚いて確認すると、同期の社員でなく、僕がジャーナリスト賞を受賞していたことになっていた。会社での自分の評価も非常に高くなっている。  僕は昨日の出来事を思い出す。  本当に過去の〈結果〉が変わっている。  あの男は本当に、魔術師や神のような存在だったのかもしれない。  社内から向けられる期待と好感の目線。  優越感に浸りながら仕事に取りかかった。 「──氷雨様、どうだったでしょうか」 「……あなたの言っていたことが理解できました」 「それは良かった。しかしどこか不満気ですね。何か不服がございましたでしょうか」 「……昨日までは良かった……しかし、何故元に戻っているんですか」  昨日、一面記事の業務を与えられ意気揚々と仕事に取り掛かっていた。それ以上変えたいことはないと、その日はそのまま自宅へ帰った。  しかし今日出社すると、自分が賞を取った事実はなくなっていた。職場から向けられる視線は、『何故お前が一面記事の担当なのか』といった不満の眼差しであった。 「言ったではありませんか。あれは『お試し』だと」  そうだ。確かに『お試し』と言っていた。だから元に戻ってしまったのか。 「申し訳ありませんが、こちらも商売ですので……正式に〈付け直す〉場合は製品版の購入が必要となります。その場合はきちんとお支払いをしてもらう必要がありますが……」 「製品版を買わせて下さい。いくらですか?」 「……支払って頂くのはお金ではありません。あなたの〈足跡〉です」 「僕の〈足跡〉ですか?」 「はい。一歩分購入される場合は、あなたの〈足跡〉を一歩。それをいただきます」 「しかし……僕には釣り合いが取れるような……誇れるような結果など今までにないのですが……」  自分の過去を振り返ってみる。何をやっても平凡で、特に取り柄もない。人に自慢出来るような結果など残してきた記憶はない。 「ご心配なく。立派であろうと、なかろうと、どのような〈足跡〉も需要があります。氷雨様の〈足跡〉でも十分お支払いいただけます」  自分のつまらない人生でも支払いになるのか。 「では製品版をお願いします」 「承りました」  一昨日(おととい)と同じように、僕はトランクに付いた足跡を上から付け直した。 「──氷雨様、今日はどうなさいました?」 「僕はジャーナリスト賞を取った。それでせっかく一面記事を貰えたというのに……『文章力がない』と怒鳴られ、何度も書き直しさせられます……」 「なるほど」 「そこで……〈出身大学の足跡〉を付け直すことできますか? 有名大学出の意見なら、上司も文句は言えないはず……」 「承りました」 「──氷雨様、今日はどうなさいました?」 「『有名大学を出ているのにこの程度か』と馬鹿にされた……大学だけではダメです。もっと前の段階から……。 〈出身高校の足跡〉を変えることはできますか?」 「もちろん……また、あなたの〈足跡〉を貰いますが」 「構いません」 「はい。承りました」 「──氷雨様、今日は」 「もっと前だ。もっと変える必要があるんだ! 何故僕がこんなに馬鹿にされないといけない!   小学校、中学校の〈足跡〉、両方とも変えて下さい! また高校もこの前とは別で付け直したい!」 「はい、承りました」 「もう一度、学校を──」 「いや、入った会社を──」 「そうだ、親だ。あの親から生まれたという事実を──」  ──付け直したい。 「大丈夫です。何度でも、何回でも。好きなだけ、付け直してもらって構いません。しかし、その代わりに。  その分の、あなたの〈足跡〉を頂きますよ」 「……僕の〈足跡〉ならいくらでも」 「……そうですか」
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