春来たりなば

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私はささくれた畳の上に、正座しなおすと言った。 「――叔父さん。叔父さんちにアルバムってないかな。そこに私の小さい頃の写真ってないかしら。あったら、もらいたいんだけど」 「小さい頃の写真って、朝海ちゃんちにも、あるだ」 あるだろうに、と言いかけて、叔父さんは口をつぐんだ。そして、深々とうなずくと言った。 「――そうか、あのとき、焼けてしまったんだね」 「うん、そう。大学のゼミ課題で、小さい頃の写真をみんな持ち寄って、編集して動画に流すことになったの。うちのアルバム、みんなあのとき、焼けちゃって」 あのとき。それは思い出したくない記憶だけど、私の家は一度火事になり半焼したのだった。原因は、物忘れの激しくなっていた祖母が、一人で家にいるときに、鍋を火にかけて忘れたことだった。火は台所から居間に燃え広がり、小さい頃から母が撮りためてきた私の写真も、ぜんぶ炭になってしまった。 私の母と達夫叔父さんの産みの親であった祖母は、火事を引き起こしたショックから本格的な認知症となり、老人ホームに入ったがほどなくして亡くなった。 火災保険は降りて、家もリフォームして、一応元通りになったけれども、私の家族は、あのときのことをずっと忘れられない。祖母を喪った原因となった深い傷として、家族の構成員みんなの心をいまでもえぐっている。
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