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101回目の婚約破棄
「今度こそお前とは婚約破棄するぞ!」
「……」
またか。と私は内心ため息をついた。
私の婚約者である彼は口癖のようになにかあれば「婚約破棄する」と口にします。
そして毎回、もうそれは息をするかのように婚約破棄の理由をツラツラと滑らかに語りまくりご満悦で帰っていくのです。もちろん私の返事は聞かないし親にも報告しない、必要書類も準備しませんわ。ただわめくだけですの。そして毎回数日様子を見てから「やっぱり止めた」と言ってくるのです。
しかもその理由がじつにくだらないのですわ。
やれ約束の時間に1分遅れただの、やれ相性占いの運勢が悪かったからだの、やれ私の髪型が気に入らないからだの――――あぁ、くだらなすぎて真面目に相手にするのも面倒くさいですわ。
だいたい私たちの婚約だって親同士が決めた政略結婚ですし、そんな理由で簡単に破棄できるものでもありません。
今日はどんないちゃもんをつける気なのかと考えると辟易してつい死んだ魚のような目になってしまいましたが許してほしいです。だって顔を合わせて0.5秒で挨拶もなしにこれですのよ?いい加減にして欲しいですわ。
もちろん侍女が側に控えていますからふたりきりではないですし彼の横暴な発言の証人もいますが、まだお父様にはこの事は言っておりません。侍女たちにも口止めしています。だって数日で撤回するのがわかってるのに毎回手続きをやり直すの面倒くさいですもの。それにたぶん言い付けたとしても婚約破棄出来ませんわ。まぁ理由にもよると思いますけれど。
別にすぐお父様に言い付けてお仕置きくらいしてもらってもよかったのだけど、そんなくだらない理由でイチイチ言い付けるのも馬鹿馬鹿しいですし……彼はなんというか素直で思い込みが激しくておっちょこちょいで、まぁ馬鹿なんですけど。ほら、馬鹿な子ほど可愛いとか言いますでしょ?
なにせ3歳の時からの付き合いですし、昔はよく一緒に遊んだものです。小枝を投げてとってこいをさせると愛犬のルドルフよりも上手にとってきてたものですわ。懐かしい思い出です。
え?その婚約者は何者かって……この国の第三王子のオスカー殿下ですがなにか?ちなみに私はセレーネ・カタストロフと申します。公爵令嬢でひとりっ子でございますわ、あしからず。
やっぱり末っ子は甘やかされて育つせいかわがままでいけませんわね。昔あんなにちょうきょ……ゲフンゲフン。色々と教えて差し上げたのにすっからかんと忘れているようですわ。
なにせ第一王子はとても優秀で次代の国王に決定しておりますし、第二王子はその補佐役として今から才能を発揮してますから第三王子に出る幕はないのです。それも踏まえての私との婚約ですわ。オスカー殿下は私と結婚して入婿し、公爵家を継ぐことになっていますのよ?これで王家と公爵家の絆がより深まると現国王も喜んでらしたからこそお父様に言い付けずにいましたのに……。
いつものように何も言わずに黙っている私にオスカー殿下は得意気に今回の婚約破棄の理由を言いました。
「俺は運命の相手を見つけたんだ!ヒルダはスタイルもいいし楽しいことを教えてくれるんだぞ!」
プチーーーーン!
その途端、私の中で何かが切れたのです。多分、カンニンブクロとかいうやつですね。
そうですか、浮気ですか。ヒルダ様と言えば最近オスカー殿下と仲がよいと噂されてる男爵令嬢でしたわね。
スタイルの良いアバ○レにそんなに楽しいことを教えてもらったんですか。よかったですわね。
こんなにイラッとしたのは「今日は夜更かしして眠いからお出掛けはキャンセルだ!無理強いするなら婚約破棄だぞ!」と言われた時以来です。あれだって無理強いもなにもそちらがお出掛けしたいからって私の予定を無理矢理変更させたんじゃなかったでしたっけ?
「……わかりました」
「へ?」
私がなんとか声を絞り出すと、オスカー殿下はその言葉が理解出来ないのかきょとんとした顔をした。
「婚約破棄でよろしいです。と申しました」
「えっ、ちょっ、セレーネ?!」
私は優雅にお辞儀をし、その場をあとにした。もちろんそのままお父様の元へ行くためだ。書類を揃えるなんて悠長なこと言っていられない。
婚約破棄を言われ続けてなんと今回で101回目。しかもその理由はオスカー殿下の浮気。
今まで我慢していたことを誉めて欲しいくらいです。
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