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モンスター
持田未来は小銭目当てに夫の上着ポケットをあさっていた。あわよくば札……
すると手に硬い感触があった。
え、もしかして財布ごと忘れた?ラッキー、千円くらい抜いとくか。
意気揚々と取り出すと出てきたのは文庫本だった。
何よ…これ…
肩を落とすと本を乱暴に投げ捨てた。
がむしゃらに弄り今日も小銭がないことがわかると盛大に舌打ちする。
スーツをくしゃくしゃに放り投げたまま歩いた時、先程の本が目に入った。
全くこんなものを買う余裕があるなら私の化粧品をどうにかしてよ
そう思った途端に体がカッと熱くなった。怒りのままに熱を足裏から発散させるかのごとく本を踏みにじる。
しかしあるアイデアがひらめいた途端に足を浮かせていた。
そうだメルカリで売ってしまおう。
よく考えれば新品なのだから、それなりに高く売れるかもしれない。
未来は早速オンラインフリマアプリを開きせっせとバーコードを読み込んだ。
自動的に表示される定型文
"まだ江戸情緒が色濃く残る明治初期、文明開花の波に翻弄されながらも特別な絆で結ばれた男女の純愛ストーリー--------
運命に導かれた2人の結末は…!"
定価746円+税
定価の部分が目に入ると、こんな無駄な買い物をした夫に怒鳴り散らしたくなった。
違う違う
はやくお金に変えなくちゃ
頭を振り出品作業に戻る。
"状態 新品未使用"
"価格 650円"
自分が商品を手荒に扱ったことは忘れ、状態は新品未使用を選択した。
出品してほどなく売れると、1円も取りこぼすまいとするようにそそくさと発送する。
彼女には夫のものを勝手に処分したことに罪悪感はなかった。
むしろ自分に出品の手間をかけさせたことに苛立ちを感じ、さらに旦那の小遣いを減らすことにした。
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