初めてのお方

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初めてのお方

最初のご主人様は(わたくし)を手にとると丹念に裏面のあらすじをお読みになられました。 それがお気に召したのか今度は表紙をとくと眺められた後、最初のページをお開きになります。 まだ新品だったこの頃の私にとって初めて本棚から引き上げられることで、選んでいただけた光栄とこの方に誠心誠意お使えしたい気持ちで胸が一杯になりました。 この方は1頁ずつ丁寧にめくられておりました。 よほど私を気に入られたのか頁に目を落としたままお会計へ向かわれます。 店主の方はふしくれだってはいるが温かい手で晴れ着を着付けるようにブックカバーを巻いてくださいました。 (不肖私、行って参ります。今まで大変お世話になりました。) その深緑のエプロン姿、とてもお似合いだと思います。 と声にならない挨拶を済ませました。 「クレジットは一括払いで承ります。サインをお願いします。」 私をお買い求めになられた方は、細長くきれいな手をお持ちの殿方でした。 手馴れた様子で"向井"と書きつけると店主に一礼して私を鞄に仕舞われました。 ついに私の御主人様が決まったようです。
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