解答編

1/1
前へ
/9ページ
次へ

解答編

 再び、関係者は全員、居間に集められていた。  前島がスマホとテレビをケーブルで接続し終えたのを確認して、亀端警部はグルリと一同を見た。 「お待たせしました。それでは、この事件の謎解きといきましょう」  ザザ……ッ、と一度乱れたが、直ぐに暗い部屋が映し出された。 『お集まりいただき、ありがとうございます』  画面中央にポツリ、スポットライトが当たる。黒いジャケットを着た上杉が、デスクの前で腕を組んでいる。 『今回は、殺意の見えにくい事件でした。権力、金、才能……三兄弟は、実に上手く棲み分けておられた。互いを妬むこともなく、むしろ思い遣ってらっしゃる』 「前置きは結構。あなたは、誰が犯人だと言うんです」  灰田が、うんざりした視線を投げる。 『犯人は――優志さん』  優志の背後の壁際で、お手伝いの2人が、怯えて抱き合った。 『あなたは、昨夜から風邪薬を服用されているのに、何故まだ治らないのでしょう?』 「き、効き目が悪いんだろう……」  赤い顔の優志は、熱に潤んだ瞳を泳がせる。 『そうでしょうか。むしろ悪化したのではありませんか?』 「待てよ、優志は病人だぞ。とても絞殺なんて力業は」 『総司さん、あなたが優志さんを犯行現場に連れ出した――だから、ぶり返したんです』  総司の反論を、上杉はピシャリと遮った。 『光彦氏を手にかけたのは、光治さんか総司さんのいずれかでしょう。この犯罪は、三兄弟の合意の下、彼らの目前で行われたのです!』 「何のために……」  貴美子が、隣の夫を見詰める。 『お互いの人生を守るためです』  上杉は、悲しげに眉をひそめる。だが、瞬時に厳しい眼差しを1人の人物に向けた。 『そして、この心優しい三兄弟を凶行に駆り立てたのは――北条さん。あなたが、言葉巧みに、彼らを唆したんだ!』  廊下から足音が近づいてきた。ドダドダと慌ただしく――。 「見つけましたー! 凶器のネクタイが、庭の雪の中に――わああっ!」  雪まみれで駆け込んできた間泉刑事は、勢い余ってテレビ台に躓いた。倒れ込んだ弾みでケーブルが抜け、画面は暗転した。 「はい、カーット!」  メガホンを持った監督が、叫ぶ。  「オンライン探偵・上杉左京」は、ネットで「犯行編」を先行配信し、視聴者の投票によって「解決編」が作られた後、両編合わせて地上波で放送する。まさに真の探偵は「オンラインの向こう側()」にいる視聴者なのだ。 「時代も変わったねぇ」  脚本家の四谷(よつや)は、スタッフの拍手を背に受けて退出する上杉役の豊水(ほうすい)を見送りながら、苦笑いした。 【了】
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加