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解答編
再び、関係者は全員、居間に集められていた。
前島がスマホとテレビをケーブルで接続し終えたのを確認して、亀端警部はグルリと一同を見た。
「お待たせしました。それでは、この事件の謎解きといきましょう」
ザザ……ッ、と一度乱れたが、直ぐに暗い部屋が映し出された。
『お集まりいただき、ありがとうございます』
画面中央にポツリ、スポットライトが当たる。黒いジャケットを着た上杉が、デスクの前で腕を組んでいる。
『今回は、殺意の見えにくい事件でした。権力、金、才能……三兄弟は、実に上手く棲み分けておられた。互いを妬むこともなく、むしろ思い遣ってらっしゃる』
「前置きは結構。あなたは、誰が犯人だと言うんです」
灰田が、うんざりした視線を投げる。
『犯人は――優志さん』
優志の背後の壁際で、お手伝いの2人が、怯えて抱き合った。
『あなたは、昨夜から風邪薬を服用されているのに、何故まだ治らないのでしょう?』
「き、効き目が悪いんだろう……」
赤い顔の優志は、熱に潤んだ瞳を泳がせる。
『そうでしょうか。むしろ悪化したのではありませんか?』
「待てよ、優志は病人だぞ。とても絞殺なんて力業は」
『総司さん、あなたが優志さんを犯行現場に連れ出した――だから、ぶり返したんです』
総司の反論を、上杉はピシャリと遮った。
『光彦氏を手にかけたのは、光治さんか総司さんのいずれかでしょう。この犯罪は、三兄弟の合意の下、彼らの目前で行われたのです!』
「何のために……」
貴美子が、隣の夫を見詰める。
『お互いの人生を守るためです』
上杉は、悲しげに眉をひそめる。だが、瞬時に厳しい眼差しを1人の人物に向けた。
『そして、この心優しい三兄弟を凶行に駆り立てたのは――北条さん。あなたが、言葉巧みに、彼らを唆したんだ!』
廊下から足音が近づいてきた。ドダドダと慌ただしく――。
「見つけましたー! 凶器のネクタイが、庭の雪の中に――わああっ!」
雪まみれで駆け込んできた間泉刑事は、勢い余ってテレビ台に躓いた。倒れ込んだ弾みでケーブルが抜け、画面は暗転した。
「はい、カーット!」
メガホンを持った監督が、叫ぶ。
「オンライン探偵・上杉左京」は、ネットで「犯行編」を先行配信し、視聴者の投票によって「解決編」が作られた後、両編合わせて地上波で放送する。まさに真の探偵は「オンラインの向こう側」にいる視聴者なのだ。
「時代も変わったねぇ」
脚本家の四谷は、スタッフの拍手を背に受けて退出する上杉役の豊水を見送りながら、苦笑いした。
【了】
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