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探偵登場
「おい、これ繋がってんのか?」
亀端は、渡されたスマホを胡散臭そうに覗き込む。署で支給されている仕事用のスマホだが、普段は通話とメールくらいしか使わないから、見慣れない画面に戸惑う。画面には、深緑色のカーテンだけが映り、誰もいない。
「はい、チャット可能です」
オンライン会議システムMoveをセッティングした前島巡査は、細面を得意気に綻ばせると敬礼した。
「おーい、聞こえるかぁ、上杉ぃ?」
「ち、ちょっと、警部っ! 離しても会話出来ますから!」
通話の要領で耳に充てて呼びかけると、前島が慌てて腕を掴む。
「それを先に言えよ」
耳から離した画面には、色白の美丈夫が苦虫を噛み潰したような渋面で固まっている。
「おう、上杉、元気か」
『ええ、2分前までは。正視に耐えかねる汚物を見せられて、意気消沈ですがね』
フン、と亀端は意に介さない不遜な笑みを口の端に乗せた。インフルエンザで自宅療養中と聞いていたが、いつもの減らず口が出るなら、心配あるまい。
『それで、事件とは?』
暖かそうなグレーのタートルネックのセーターに身を包んだ上杉は、こちらに視線を送った後、左側に歩き去った。
「ああ。我修院光彦が絞殺された」
『……ほう。まだ存命でしたか』
無人の画面から、音声だけが聞こえてくる。亀端は、顔を傾けてスマホの左端を覗き込んでみたが、もう姿は見えない。
「権威も健在でな、関係者が集められていた」
手元の資料を棒読みする。わざわざ遠距離で会話出来るシステムを使っているのに、顔が見えねぇんじゃ、電話と変わんねぇだろ。
『関係者を? 何故です?』
「今夜、遺言書を書き換える予定だった」
『成程。内容は?』
「分からん。なんせ、弁護士も新しい内容は聞いていないときた。光彦の頭ん中にしか残っとらん」
『警部は、遺言絡みと睨んでますか』
「可能性はある。お前の考えは?」
『はは。相変わらずせっかちですな。まだ情報不足ですよ』
へいへい。素直に「アリバイは?」と訊きやがれ。
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