その時、人々は

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その時、人々は

 我修院邸は、元々は別荘だった。市内中心部から車で2時間もかかる辺鄙な山間にあるが、療養するには閑静で空気も良い。  全員集合の命により、三兄弟と北条、灰田は、昨日の午後から夜にかけて続々とやって来た。到着後、光彦に挨拶を済ませると、各々邸内で自由に過ごし、20時から約1時間かけて、光彦以外の全員が食堂で夕食を取った。  その後、貴美子はたっぷり2時間程入浴を楽しんで、就寝。到着時から風邪気味だった優志も、市販薬を飲んですぐにベッドに入った。  一方の男性4人は、居間に移動して、飲みながら将棋を打ったり、テレビを視たりしていた。0時を回る頃、北条と灰田が部屋に戻り、お手伝いの2人も床に就いた。深夜1時に宇治原が光彦の様子を見てから就寝し、兄弟だけがダラダラ飲み続け、結局3時にお開きとなった。自室に戻る途中、総司は隣室を覗いて、弟の寝息を聞いている。  第一発見者は、宇治原だった。  光彦は、いつも5時半に目を覚ます。その前に、朝刊を届けるのが日課なのだが、いつもは5時15分までには配達される朝刊が、今朝は雪のせいか10分遅れて届いた。急ぎ、光彦の部屋へ向かうと、一晩中点けておく足元のランプが消えていた。不審に思いながら襖を開けて――変わり果てた姿を発見した。 「死亡推定時間は、3時半から4時半の間。3時半頃に、遠山がトイレに立った帰りに光彦の部屋から漏れる明かりを見ているから、犯行はその後だな」 『警部。光彦の部屋には、誰でも自由に出入り出来た、ということですかな?』  気取った手付きでティーポットから茶色の液体をコポコポと淹れながら、探偵の声が戸惑いに沈む。 「和室だからな。出入口は足元の襖だけだ。当然、鍵など付いとらん」 『密室……ではないと?』 「なんだ、ガッカリしたのか」 『いえ。しかし、ここまで伺う限り、全員アリバイがありませんな』 「だろぉ?」  亀端は、捜査が暗礁に乗り上げたのは、己が無能だからではないと言わんばかりに、唇の端を上げた。 『動機は、伺ってますか』 「ああ、一応。おい、前島。お前が読んでくれ。いい加減、喉が枯れちまう」  聴き取ったばかりの手書きメモだから、データ送信出来ないのが、実に不便だ。 「は、はいっ! でっ、では、僭越ながら、不肖前島、ご報告させていただきますっ!」  重大な役割を任され、畏まって敬礼すると、亀端の手帳を恭しく受け取った。
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