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オンラインで訊け!
『お疲れのところ、ご協力に感謝します。これまでの捜査から、犯人はあなた方3人の中の1人だと絞り込めました。私は、更に特定の方を疑っておりますが、確信を得るため、皆さんにお話を伺いたいのです。では、これからお1人ずつ順に繋がせていただきます。他の方には音声は聞こえませんので、ご安心ください』
オンライン会議システムMoveは、主催者から送られてきた専用ルームのアドレスにアクセスし、入力したパスワードが認証されることで会議に参加できる。参加者全員で会話することも可能だが、主催者が他の参加者の音声をシャットアウトして、特定の参加者とだけ会話するオプションがある。
上杉は、このオプションを使って、任意の事情聴取を行おうというのだった。
三兄弟は、亀端警部の捜査協力要請に従い、それぞれ邸内の個室に移ると、彼ら個人のスマホから会議に参加した。
冒頭の口上を済ませた上杉は、最初に光治にだけ音声を繋いだ。残りの2人は、映像しか見られないから、表情で会話の内容を推測するしかない。
『では、光治さん。率直に伺います。犯人は、総司さんですな』
「まっ、まさか! 何を根拠に?」
仕事部屋にいる光治は、執務机の革張りのチェアからビクリと身を起こした。父親似の太い眉が怪訝に歪められる。
『亀端警部がお話を伺った時、彼だけが、わざわざご自身のアリバイを強調しました』
「あれは、本当に優志が心配だったんだ。あいつは優しいんです」
『総司さんの会社は、今期大赤字になるそうじゃありませんか。早く纏まった金が欲しい筈です』
「それだけでは、証拠にならんでしょう」
『では、あなたは……犯人が優志さんだとお考えですか?』
「……えっ? いや、まさか」
再び、焦りの表情が滲む。自ら犯人だと白状しない限り、一方を否定すれば、もう一方を肯定することになる。
『優志さんは、お父上に海外留学を反対されていたそうですね』
「ああ……だが、そんなことで殺しは……」
『弾み、ということもありますが?』
「第一、優志は熱があったんだ。いくら父が弱っているからって、無理でしょう」
『では、あなたはどちらの犯行だとお考えですか?』
「それを調べるのが、君達の仕事じゃないのかね」
『……いいでしょう。ひとまず、会話を切ります。このままお待ちください』
光治は、頷くとチェアにドサリと身を沈めた。
上杉は、続いて総司と繋いだ。彼に『犯人は優志だ』と伝えると、激しく否定された。『では、光治の犯行だと思うのか』と問い詰めれば、一瞬言葉に詰まる。
「兄貴には、親父を殺す理由がないだろう」
『おや、政治献金の件で揉めていると伺っておりますが』
「……北条か。アイツ……」
『総司さん。光治さんには殺害動機がないと仰った。優志さんにはあるとお考えですね?』
「アンタね……それは、言葉のアヤですよ。俺達、誰にも動機なんかありません」
『……そういうことにしておきましょう。一旦、会話を切ります。このままお待ちください』
総司からは、敵意に満ちた眼差しだけが返された。
最後に繋いだ優志は、相変わらず辛そうな様子で、ベッドの上で毛布に包まっている。スマホは、ベッドサイドのテーブルに置いてあるようだ。
上杉が『犯人は光治だ』と断言すると、彼は低く笑った。政治献金の動機を指摘しても、彼は長男が如何に父親想いなのかを強調するだけで、まるで真に受けない。
『では、総司だと思うのか』と問えば、またしても引き攣ったように笑う。そして――。
「それもありませんよ。疑われるなら、僕でしょう」
『ほう。それは何故です?』
「ご存知ですよね。僕が留学のことで、父さんと言い争っていたって」
『それが殺害動機になりますか?』
「……どうでしょう。でも、僕はやってないですよ」
『お父上をお好きでしたか』
「……さぁ。少なくとも、憎んではなかったです」
『分かりました。会話を切ります。このままお待ちください』
上杉は、もう1人の参加者、亀端警部とだけ繋いだ。
『警部、犯人が分かりました』
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