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そこは見渡す限り砂漠。時折見えるものといえば倒壊したビル、そして山のように積み上げられたコンクリート片程度だ。
そんな砂漠を歩くのは二人の青年。一人は背が高く、もう一人はその半分ほどの身長しかないが同じ年齢だ。どちらも頭から足先までを覆う日除けのフードを被り、背負われた大きなリュックに付けられた金属性の鍋とコップが歩く度に金属音を奏でていた。二人はずっと歩いていたが、どの方角から来たのかは分からない。なぜなら風に吹かれ、二人の足あとはすぐに消えてしまうからだ。
小さい方はしきりに話をしているが、背の高い方は何も反応しない。どうやら話を聞くことに集中している様子だった。
「・・・そして、ある文献が見つかる。」
小さい方の話は続く。
「およそ10000年の間に文明は三度崩壊したと。一度目は人類同士の戦い、二度目は地球外生命体の来訪、そして三度目はエネルギー資源の枯渇だった。」
背の高い方が手に持ったコンパスを覗く。どうやら歩く方角が少しずれ始めていた様子で、小さい方に歩くべき方角を指さして教えた。
指された方角に歩きながらも小さい方の話は止まらない。
「エネルギー資源が枯渇しそうになったとき、新たな技術を作り出したのは機械だった。機械は独自の思考を持ち、電気以外のエネルギー確保を自分達に組み込んだ。人間達が出すゴミや残飯を、加工することなくそのまま飲み込むことでエネルギーへと変える画期的な技術だ。始めはとても良いものであった。しかしそれが・・・」
ここで小さい方の話が止まる。
「ねえ、あれ。」
小さい方が指さした方角は向かうべき方角とはずれている場所。そこには多数の倒壊したビル群があった。
「確かに休憩には良さそうだけど、ちょっと休むのが早すぎないか?」
背の高い方が呆れ気味に言う。
「いやそうじゃなくて。ほら、なんか葉っぱみたいなのが見えない?」
背の高い方が目を凝らす。倒壊し幾層かに重なったビル群、その隙間から光を求めるように緑色の葉っぱが伸びているのが確認できた。
「でかした!水があるかもな!」
そう言いながら背の高い方は、小さい方の頭をなで回す。
「ヤメロ、縮む。」
小さい方は笑いながら頭をなで回す背の高い方の手を不満そうに振り払った。
二人はひとまずビル群に向かって歩き始めた。
「そうそう、さっきの。10000年はさすがに盛り過ぎじゃない?実際は8400年そこらじゃなかったっけ?」
背の高い方が忠告する。
「およそって言ってるし、そもそもこういうのはインパクトが大事なのさ。そうしないとみんな話を聞いてくれないだろ?」
小さい方が悪びれなく言う。
「でも正確さも大事だろ?特に歴史を伝える語り部になりたいんだったらなおさら。」
「でも、ちゃんと話に興味を持ってもらって覚えてもらえないといけないからなぁ。イメージのしやすさやインパクトも大事かなー、と。」
「まあ俺は何でもいいけどな、おまえが好きにやればいいよ。そもそもその歴史だって俺らの町に残ってた物を繋ぎ合わせただけだからどこまで信用できるんだか。」
背の高い方はそう呟きながら遠い空を眺めた。
「でも結構信用できると思うけどな、何となくつじつまが合う部分もあるし。それに正しい歴史を知りたいから旅に出たんでしょ?」
小さい方は背の高い方に問う。
「それはあくまで理由の一つさ。もともと村に居続けるのは性に合わなかったし、いろいろな場所を見たかったし、歴史も知りたかったし、それにおまえが歴史の語り部になるって夢を叶えれるのかも見届けたかったしな。」
「ふーん。」
背の高い方の話を小さい方は聞き流す。
「案外、恥ずかしいことを言ったと思うんですけど・・・」
小さい方が予想外の反応をしたので、背の高い方がぼやく。そんな会話をしている内に二人はビル群の日陰へと入った。
そこは広いが風は入り込まず、湿った土の匂いがほのかに漂っていた。そしてやはり、木のある場所には小さいながらも泉が出来ていた。
「やりぃ!」
「やった!」
背の高い方と小さい方は各々喜びを言葉にし、鞄を降ろしてコップを手に取り水をすくって飲んだ。
『旨い!』
二人が声を合わせる。
その後、鞄から形のことなる水筒をそれぞれ二つづつ取り出し、たっぷりと水を入れた。
「あー。」
背の高い方が腰を下ろす。
「一息付くとドッと疲れがくるな。今日はここで休んでいこうかね。」
「それも良いかも。」
背の高い方の提案に小さい方も乗り気だ。
背の高い方が立ち上がり、荷解きを始めようとしたが何かに気付き手を止める。
「どうしたの?」
小さい方の問いに背の高い方は指を指して答える。指さした方角は倒壊したビルが屋根になって出来た小さな広間のような場所。そこは湿り気が強く、地には草も生えていた。そして無数の足あとも残されていた。
二人は無言でリュックを背負い、足あとと残る場所へと向かう。
そこでは惨劇が想像できた。二本のタイヤ痕の周りには無数の三本爪の足あとが残されていた。
「休憩してた所を襲われたのかな、血の跡は無いけれど・・・」
小さい方が息を飲む。
「血の跡なんか残らないよ、あいつ等は丸飲みさ。逃げれてたらいいんだけどな・・・」
背の高いほうはタイヤ痕を目で追う。どちらから来て、出たのかはわからないが、タイヤ痕はおおよそ西と北へ向いていた。そして再び三本爪の足あとを眺める。
「早く出よう、もしかしたらコイツがまた来るかもしれない。しばらくは気を付けて歩かないとな。」
背の高い方はコンパスを眺める。
「よし、こっちだ。なるべく今日は歩いてここから距離を取った方がいい。」
「そうだね、行こうか。」
無事なのか、はたまた命果てたかわからぬ同朋のため、二人は足あとに向かって目を閉じて祈りを捧げた。
二人はしばし無言で歩く。ビル群を抜け、砂漠に出たとき小さい方が口を開いた。
「無事だと良いけれど・・・」
「そうだな・・・」
二人は再び風吹く砂漠の中、歩を進める。歩く度にリュックに付けられた金属性の鍋とコップが寂しそうな金属音を奏でる。
「それで、話の続きだけどさ。」
背の高い方は気持ちを切り替えるため話しかける。
「前半が単調だから、最初に現状の危機を話すのはどうかな。それからなぜこんな現状が生まれたのかを話す、的な。」
小さい方が腕組みをして考える。
「つまりはこんな感じ?」
そして小さい方が語り始める。
「作物も育たぬ枯れた大地。乾き、飢える我々に追い打ちをかけ生命を脅かすものがいる。それは皆も知っている、我々を食らい、丸飲みする車という存在・・・」
背の高い方は話を聞くことに集中し、二人は旅を続ける。
風に吹かれ、二人が付ける三本爪の足あとはすぐに消えていった。
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