同じ足あと

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 瞑想していた私は目を開けた。そして日本応援団の方へと目を向ける。ふと、数ある横断幕の中から私にしかわからないメッセージが目に入った。 『次はこけるな』  中野たちはあそこにいる。きっとこの悪ふざけのために昔の悪童たちをかき集めてきたのだろう。  中野は現在会社員をやっている。彼はその才能を生かして、高校はスポーツの強豪校に推薦入学した。しかし粒ぞろいの高校ではいまいちパッとせず、また、家の事情によりプロスポーツ選手への道は諦めざるをえなかった。  彼は好きなことをやっている私が羨ましいと伝えてきたことがある。そして、自分が叶えられなかった夢を託すと……。  さらに目を凝らすと、その横断幕の横に、継ぎはぎだらけの小さな足あとも見つけた。 『自分にしかできないことをしなさい』  私はこの場にてようやく母の言葉を理解した。これまで私を支えてくれたみんなに、私と同じ境遇を嘆いている人たちに、夢と希望を与えるために私は金メダルを獲る。  私はクラウチングスタートの姿勢をとった。
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