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とりあえず自己紹介を返す。お姉さん感を出そうとしてみたが、うまくいかなかった。後輩相手に敬語になる。
「優花先輩。よろしくお願いします」
何にも興味がなく、どうでも良さそうな目をした後輩との会話は、ここで終了した。2人しかいない講義室に沈黙が流れる。もう帰ってもいいかな。
手元のスマホを見る。
梅雨。5月から7月にかけて来る曇りや雨の多い期間のこと。雨季の一種である。
なんとなく『梅雨とは』と検索したら1番上に出てきた文がそれだった。
窓の外に目を向ける。細い線を上から下へ向けて描きながら雨が降っている。雨はわたしをそわそわさせる。
『優花』
優しくわたしを呼ぶ声。忘れられない、忘れてはいけない過去の記憶。
ふと視線を感じてそちらを向く。色のない瞳は、真っ直ぐわたしを見ていた。ドキリ、と心臓が跳ねる。
全てを見透かされているような気がして、慌てて目を逸らした。
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