夢と現実

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 会いたかった。ほんとうに、会いたかったんだよ。  すっと手を伸ばした彼に目元を拭われて、驚きでその指を見つめると、小さく笑われた。 「チロ、変わんないな」  変わらない良さもあるといいな。  せっかく引っ込んだ涙は、少し気が緩むと、またじわじわ、ひとつふたつとこぼれ落ちた。 「会いたかったよ」 「っわ、わたしも、あいたかった、です」  つっかえながら、大きく息を吸って、涙を拭って、笑い合う。  伝えたいことがたくさんある。聞きたいこともたくさんある。積もる話が山のようにある。  夢みたいな現実に、ふわふわと、でも確かに私は思っていた。  この瞬間のために生きてきたんだと、そう確信していた。 【完】
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