きみはあくまで

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歩き煙草禁止のステッカーを踏みつけるように煙草を取り出した。銘柄はもうずっと前から変わっていない。 意外と一途だろと笑ったら、あいつは「知ってるよ」と宣った。 馬鹿みたいだ、何度も思い返しては消えない感覚に眩暈がする。全部知っているくせに、知らないふりをしている。いや、全部知っているから、知らないふりをしている。 俺は頭がおかしいから、何をしていても一つのことに頭が縛られている。 どんなに遠ざかっても、どんなに自制しようとしても、結局同じところに立ち返ってしまう。狂っていて、気がおかしくなっているとしか思えなかった。俺という存在自体が壊れている。 長い病に侵された体を引き摺って、普通のふりをして生きてきた。 何度ももういいか、と思った。例えばまだ夜も深まる前の群青色の夜空に、紫煙が浮かぶ瞬間だ。刹那に柔肌に触れた感覚が戻って、全てをぶっ壊したくなる。 「そいつ、俺の子じゃねえの」 空に吐いて、唇から洩れる煙に笑った。痛すぎる言葉を聞き届ける者なんていない。そう思うのに、後ろから何かがぶつかってきて、灰が空に飛んだ。
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