844人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
主導権を握るのは無理か、と笑いそうになって右手を引こうとしたら、やはり簡単に掴まれる。図体だけは、無駄に大きくなったものだ。
「ムラムラしてきた?」
今度こそ離れた唇に呟いて茶化すように笑ったら、真剣そうな瞳とぶつかった。私のすべてを壊す瞳。
「ずっとしてたよ。お前が知らないフリしてただけだろ?」
「どうかな。今初めて知ったけど」
「へえ、じゃあわかるまで寝かせねえから」
「おお、そういうこと言うんだ。男っぽい」
「お前な……」
呆れたような声に笑って掠めるように唇を奪った。その刹那に瞳の色が変わる。もう何度も見た。
何度も避けた瞳だった。まるで、私が欲しくて仕方がないみたいな瞳だ。
「はぐらかすなよ」
「はぐらかして、ないよ」
「嘘吐け、なかったことにするくせに」
「そっちの方が、あんたも都合良いくせに」
「わかってねえフリは、もうさせねぇから」
図星をさすように強い瞳で射抜かれて、呼吸が止まった。もう何年も前から止まっていたはずなのに、改めて息の根から止められたみたいだと思った。
呆気なく素肌に触れられて、この世で最も陳腐な言葉を吐きそうになった。堪えるようにその男の唇に押し込む。
最初のコメントを投稿しよう!