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触れた先から侵食して、この男の心臓をぶっ壊してしまえばいいのにと思った。そのまま、私だけのものになって、永遠にここから出られなくなればいいのに。
絶対にそうはなってくれない。
明日になれば簡単に私に背を向けて、ファストフードみたいに安っぽい恋愛に甘く囁くのだろう。なんてくどい世界なんだ。
何一つ思い通りに行かないから、この人一人くらい、わたしの思い通りにさせてくれてもいいのに。どうしてこの男は思い通りになってくれないのだろう。
鼻から抜けるような媚びた声が耳元にぶつかって、吐き気がしてくる。それをやつはケラケラと笑っていて、むっと眉を寄せると「エロくてかわいい」と吹き込まれて黙った。
どうせ、もう何万回も使い古された言葉だ。そんな言葉にいちいち心動かされたりしたくない。
「華奢だよね」
「ご機嫌取り?」
「はあ? なにいきなり拗ねちゃってんの?」
「拗ねてないけど」
シーツと背の間にするりと入ってくる指先が熱くなった背筋をやんわりと撫でつける。その指先の熱に思考があやふやになって行く。
こうして何人の女の子が体を捩らせたのだろう。その中のひとりになれればいいと思っていたさっきまでの自分はいない。
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